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2016-01-20 06:10
相次ぐ安倍シンパの再増税延期論
杉浦 正章
政治評論家
昨年夏のバブル崩壊後巨大なるドラゴンが、地響きを立ててのたうち回っている。チャイナリスクというドラゴンだ。そのあおりを一番受けているのが日本の株式市場だ。1月19日は中国のGDP発表と連動した上海株への当局の介入もあってやや持ち直したが、下げ基調は代わらないという見方は強い。首相・安倍晋三は消費増税の再延期について「リーマンショックや大震災級のショックがない限り引き上げる」と突っぱねているが、いまや年初来の株安は10営業日で一時2000円を超え、2008年のリーマンショックの3616円、2000年のITバブル崩潰の2698円に迫りかねない流れも出てきた。そもそもの原因は消費増税の8%への引き上げに根ざしているという見方が強いが、これをさらに10%にしたらどうなる。安倍は「増税に耐えうる経済を作る」と強気だが、だれがみてもアベノミクスは再度の増税には耐えきれないという見方が強い。
奇妙なことに安倍のシンパほど消費増税再延期論が強い。昨年の延期に関しては安倍側近が事前誘導の先陣を切ったが、今度は外部から延期論が出ている。まずマスコミでは安倍大好きの産経が1月15日の朝刊一面トップで「安倍晋三内閣はきっぱりと来年4月からの消費税再増税中止を宣言し、GDP600兆円早期実現への道筋を示すべきだ」と報じた。さらに加えて安倍政権とはツーカーの大阪府知事の松井一郎は18日、消費税再増税について「増税の時期は今ではない。デフレを完全に脱却するためにも、来年4月に増税する必要なし、との立ち位置でいく」と明言した。シンパの再延期論は安倍の胸中をおもんばかって“誘い水”を流しているのだろう。おおさか維新は夏の参院選挙の公約に増税延期を掲げる方針だ。筆者も、安倍シンパではなく中立だが、新年早々にトップを切って「安倍は『消費増税再延期』で国民の信を問え」と書いた。このままでは安倍が好むと好まざるとにかかわらず、消費増税再延期問題が夏の選挙の最大の争点の一つに浮上する可能性がある。
専門家の間でも「現在の株価が下落を続ければ、リーマンショック級になると思う。消費再増税は躊躇せずに延期した方が良い」「先送りすべきだ。間違いなくファンダメンタルズが悪化している」といった声が強まっている。そこで上海株の下落が続くかどうかだが、ウオール街筋の見方では「現在2900ポイントの水準が少なくとも均衡水準の2500ポイントまでは下げる」という見方が強い。下げ続ければ日本株も影響を受けざるを得まい。
その原因には、中国の実態経済の悪化と原油安がある。19日発表のGDPは6.9%で国家統計局長の王保安は「6.9の数字は際立って秀でており、世界でも上位に位置するものだ」と胸を張ったが、その姿がどこか馬鹿げて見えたのは筆者だけではあるまい。この数字をそのまま信用して「政府目標にほぼ達した」などと社説に書いているのは、親中国の朝日新聞だけだ。専門家の間では「大本営発表を額面通りに信じている人は市場では極めて少ない。実勢は4~5%ではないか」とする見方が圧倒的だ。専門家によっては「市場暴落の先送り策だ」という厳しい見方すらある。事実相手国があってごまかせない2015年の中国の貿易総額をみれば前年比8.0%の減であり、これはリーマンショックで落ち込んだ2009年以来6年ぶりの前年比マイナスだ。加えて「元安」は底が知れないという指摘があり、中国政府は介入するが、外貨準備は減少の一途だ。まだ3兆3000億ドル程度あるから通貨危機になる気配はないが、不安材料であることは間違いない。
この中国の景気低迷がもたらす原油需要の減少などが、原油安を直撃しており、産油国は資金不足となってオイルマネー回収に出るという悪循環をもたらしている。日本の株価の下落はこうみてくると、すべて「のたうつドラゴン」に起因することになり、そののたうちはそう簡単にはやむことがない。中国経済は危険水域に入りつつあるとみるべきであろう。したがって安倍は、これまでやってきたように日銀を促して金融緩和政策を早めに打ち出すのはもちろん、リーマンショックになるのを待たずに、“準リーマンショック”の段階で消費増税を再延期して、筆者が新年に書いたように「消費増税延期」をテーマに衆院を解散してダブル選挙を実施すべきではないか。そうでもしない限りGDP600兆円の達成は夢のまた夢になりかねない。
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