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2016-01-06 06:31
今「憲法改正」をやっている暇はない
杉浦 正章
政治評論家
1内閣1仕事というが、既に安倍内閣は安全保障関連法の実現、アベノミクスによるデフレからの脱却という大事業を成し遂げた。これに憲法改正が加わるかというと、はっきり言って「その暇」はない。「憲法様をその暇とは何か」と右翼や産経から怒られるかも知れないが、その暇はないのだから、ないのだ。憲法改正は昨年の安全保障関連法で集団的自衛権の限定容認が実現したことでそのエネルギーの大半を使い切った。同法は紛れもなく憲法9条の解釈改憲であり、当面10年や20年はこれで十分だ。自民党は改憲が党是であり悲願だが、緊迫する世界情勢や、アベノミクスの総仕上げなど重要課題がひしめいており、夏の国政選挙に向けて「改憲」を前面に押し出して選挙などやっていられないのだ。例え衆参で改憲発議が可能な3分の2議席を獲得しても、国民投票で過半数を得られなければ、内閣は総辞職か解散に追い込まれる危険がある。首相・安倍晋三は新年の記者会見で改憲について「憲法改正はこれまで通り参院選でしっかり訴えてゆくし、議論を深める」と言明した。駆け出し記者は「すわ改憲」と色めきだつが、プロが読むと、極めて慎重な発言に見える。
「これまで通り」が決め手だ。「これまで通り」と言うのは、主張はするが本気で実現に向けて動かないということだからだ。右翼はどうも先の安保法制以来、安倍を親方日の丸と位置づけ「行け行けどんどん」と景気づけるが、安倍は法制が実現したからこそバランス感覚を働かせていることを感知していない。それに自民党内の物の見方は落ち着いている。朝日が昨年11月に興味深い自民党意識調査を掲載している。党員・党友を対象にした調査は、自民が「党是」とする憲法改正を「早く実現した方がよい」は34%で、「急ぐ必要はない」の57%が上回った。9条についても「変える方がよい」は37%で、「変えない方がよい」の43%の方が多かった。産経はこれに食らいついて「なぜ朝日新聞は自民党員・党友の意識調査をこれほど歪めて読み解こうとするのか」と感情丸出しの反論記事を載せているが、文句があるなら自分の調査で反論すれば良い。調査の信ぴょう性は安全保障関連法の成立について、「よかった」が58%で、「よくなかった」の27%を上回ったとしており、これで我田引水調査ではない事が分かる。
政治状況を見てみるが良い。野党は躍進の共産党票欲しさに、民主党代表・岡田克也が同党に卑しげにすり寄り、熊本、石川選挙区などで、安保関連法の廃止などを旗印に、無所属の野党統一候補の擁立も進めている。共産党だろうが何だろうが、悪魔と手を結んでも政権を奪回するなりふり構わぬ「野合」路線だ。策士小沢一郎の術中にもろにはまったのが岡田だ。「究極の野合」である。その共産党と民主党が狙うのは、安保法制で実現した市民運動の再来である。国会前に10万人集めて気勢を上げた、あの素人が見ると“革命前”の如き盛り上がりが、歌の文句ではないが「忘れられないの」なのだ。こうした導火線に火が付きそうな状況下で「憲法改正」を前面に出したらどうなる。共産党の思うつぼにはまるのだ。「戦争法案」の合い言葉が「戦争憲法阻止」に変わるのだ。そんな政治状況を知らない右翼や右翼紙が「憲法改正のチャンス」などと叫べば叫ぶほど、安倍の足を引っ張ることになることが分からないかというのだ。さすがに安倍は軽々に乗らない。むしろ慎重である。例えば朝日も含めて主要紙が昨年10月に報じた南スーダンへの駆けつけ警護だ。最近になって「参院選以降に先送りする方針を固めた」などと報じている。明らかに安倍がもともと考えてなどいない方針を勝手に誤報し、今になって「変更した」はない。筆者は記事が出た直後に「南スーダン『自衛隊殉職』が政権直撃の構図」「 国政選挙を前に安保の寝た子を起こすな」と全面否定したが、もともと南スーダンごときで自衛隊初の殉職を出す必要も無い。殉職が出るケースは東シナ海で対中戦が発生したときや、北の核攻撃の際などに限られるのだ。
安保法制が戦争抑止を目的にしていることがまるで分かっていない。米イージス艦が南シナ海をパトロールした際も産経は「日米共同パトロール」の見出しを躍らせ、「9月に成立した新たな安全保障関連法制は、自衛隊と米軍の連携の幅を大きく広げるもので、今回の米艦航行で緊張が高まる南シナ海における日米の共同作戦行動も視野に入れている」などと報じたが、安倍は乗らなかった。今度の中東危機も産経は「ホルムズ海峡封鎖現実味・政府、安保法発動も視野」などと6日の朝刊でやっている。まるで軍艦マーチを奏で、「勝って来るぞと勇ましく」を歌うような報道だが、さらさらそんな状況ではない。時代を錯誤するなと言いたい。「戦争憲法阻止」で国会前に烏合(うごう)の衆でも10万人が集まったらどうなる。5月26日のサミットを前にして、各国首脳に「体裁が悪い」こと限りがない。要するに、今国会では野党やいったん十字架を打たれて死んだ「ドラキュラ市民運動」を復活させる必要はないのだ。憲法改正など「神棚」にあげて、たまに拝むぐらいで十分だ。新年会のあとの財界人の景気見通しは必ず的中するが、今年はおしなべて株価が年末に2万3千円になると予測している。憲法改正より国民は生活改善だ。弱者を援助する「老人3万円給付」や、アベノミクスで生じた30兆円の「埋蔵金」を使った「埋蔵金パズーカ」など、どんどん弱者救済に当てるべきだ。民主党政権が行った史上最大の「ばらまき政治」に比べれば、たいしたことはない。弱者は、選挙目当てだろうが何だろうが、助けてもらいたいのだ。
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