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2015-11-20 06:42
安倍、南シナ海への自衛隊派遣を検討
杉浦 正章
政治評論家
一見テロ対策と経済対策一色に見えるアジア太平洋経済協力会議(APEC)だったが、舞台裏では中国対日米同盟のすさまじいせめぎ合いの構図が展開された。とりわけ米大統領オバマと首相・安倍晋三の会談では、日米同盟を地球規模に拡大することで一致し、安倍は「南シナ海での自衛隊の活動」に言及した。これは、南沙諸島の埋め立てにより領土拡大路線を進める覇権主義中国への極めて厳しいけん制球となった。加えて環太平洋経済連携協定(TPP)首脳会合で自由貿易圏の拡大方針が確認され、同協定の中国封じ込めの色彩が強化される状況となった。安倍による南沙情勢へのコミットメントは、安保関連法成立後最も重要な首相発言と言え、通常国会では野党の強い反発を招き、激しい議論に発展することが予想される。APECでの孤立化を回避する中国の下準備は相当なものがあった。危機感を抱いたのか、国家主席・習近平自らが5日にベトナムを訪問、経済協力を約束。11月10日には外相・王毅が議長国であるフィリピン大統領・アキノと会談して、南沙問題を議題にしないようにクギを刺した。さらに11日にはタイ、カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムの外相を招いて会談、一種の“多数派工作”を展開した。この結果APECの共同宣言では南沙問題には一切言及がなかった。そればかりか南シナ海の問題は一切提起されなかった。中国の“根回し”が利いたことと、アキノが議長として中立的立場を取らざるを得なかったことが影響した。
ところが日米は、協調を旨とする国際会議の表舞台を避けて、裏舞台で中国包囲網への動きを展開した。オバマとアキノの会談でオバマは海上安全支援策を増強し、2年間で2億5000万ドルの支援を約束した。安倍もアキノとの会談で南シナ海問題での協調と支援を確認した。さらに重要なのはTPP首脳会合だ。安倍は今後の方針として参加国の拡大に言及したが、会合後フィリピン、タイ、インドネシア、韓国などが参加に前向き姿勢を示した。中国は共産党の一党独裁体制で事実上の統制経済を行っており、この体制が改まらない限り参入は困難である。したがってTPPはおのずと中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)への対抗的な色彩を帯びる結果となったのだ。
そして極めつけが日米首脳会談だ。オバマは南沙でのイージス艦の航行など「航行の自由作戦」に関して、「日常の行動として実行していきたい」と述べ、継続の方針を明言。これに対して安倍は「中国の現状を変更する一方的な行為にはすべて反対する」と、米国の作戦への支持を明確に表明した。加えて安倍は「南シナ海での自衛隊の活動は、情勢が日本の安全保障環境に与える影響を注視しつつ検討する」と述べたのだ。明らかにオバマに対するコミットメントである。ただ具体的な行動については明確にはしなかった。安倍は去る11月11日の参院予算委でも自衛隊の南シナ海派遣について「我々は様々な選択肢を念頭に置きながら検討を行っていきたい」と発言している。派遣に前向きと受け取られても無理はない発言だが、その時は「現時点で具体的な計画はない」とも述べている。それからまだ1週間あまりであり、オバマへの発言も具体的な計画はないのだろう。発言も「安全保障に与える影響を注視しつつ」と、無条件ではないことを付け加えている。
ただ「安全保障に与える影響」とは、安倍が安保法制審議で繰り返した「我が国に死活的な影響」という集団的自衛権の行使の要件より緩い。しかし、安倍は国会答弁で南シナ海で問題が生じた際の対応について、「ホルムズ海峡と異なり迂回路がある」とも述べている。したがって安倍発言の真意は、米国の「航行の自由作戦」にまる乗りして、共同パトロールをするところまで踏み込んではいないと思われる。だいいち自衛艦は東シナ海への対応で手一杯だといわれており、よほどの事態でも発生しなければ、パトロールはフィリピンやベトナムに提供する巡視船に委ねるのが賢明だろう。ではどのような場合に派遣が実行に移されるかだが、日米共同訓練の場を南シナ海とすることも考えられるし、12カイリの外側での監視行動や空自による監視活動などもあり得る。米艦への物資補給やかつてのような洋上での石油供給活動なども比較的やりやすいと考えられる。いずれにしても南シナ海への自衛隊派遣を口にした首相はなく、大きな議論を呼ぶものとみられる。中国は表舞台に気を取られるあまりに、裏舞台にまで手が回らなかったことになる。11月22日にはマレーシアで東アジア・サミットが開かれるが、ここでは従来政治・安全保障をめぐる討議も行われてきており、中国の南シナ海進出に対する意見が出される可能性が高い。
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