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2015-11-18 06:48
奇襲「代執行」作戦で政府圧勝の決着へ
杉浦 正章
政治評論家
織田信長が今川義元を討った戦国時代最大の奇襲作戦が桶狭間の戦いであったが、政府も奇襲攻撃に出た。さすがに官房長官・菅義偉はけんかの仕方を知っている。普天間基地の辺野古移設で、沖縄県知事・翁長雄志を狙って長引く行政不服審査法ではなく、迅速な司法の判断が出される「代執行」提訴に踏み切った。翁長は最近まで想定しておらず、高裁判決が来年3月までに出され、翁長が最高裁に上告しても夏までには決着が付く。国が地方の長を相手取った裁判でこれまで敗訴したことはない。さすがの翁長もめったにない国の急襲に慌てふためいて「県民にとっては銃剣とブルドーザーによる米軍の強制接収を思い起こさせる」と述べるのがやっとだ。「銃剣とブルドーザー」は翁長が県民の感情をあおる常套句だが、政府は地方自治法という最も日本の民主主義を象徴する法律に基づいて訴訟を提起したのであり、こればかりは感情に訴えても駄目だ。
昔自治省の内政記者クラブで取材した頃、地方自治法を先輩記者からたたき込まれたことを思い出す。今回の政府による訴訟は都道府県の自治権を規定した地方自治法のいわば例外的な条項に基づく。明治憲法では地方自治などと言う概念がなく、すべて中央優位の思想に基づいていたが、地方自治法にも国の関与を認める条項がある。その245条で国の代執行を認めているのだ。代執行とは国が県に委ねた業務で放置すれば公益を著しく害するケースにおいて担当大臣が知事に代わって行う手続きだ。知事がよほどひどい能力上の欠陥があった場合や、特定のイデオロギーにのっとって行政を行うケースを想定して国の関与を認めたものであろう。同条項は国が勝訴の場合「当該高等裁判所は、各大臣の請求に理由があると認めるときは、都道府県知事に対し、期限を定めて当該事項を行うべきことを命ずる旨の裁判をしなければならない。」と判決内容にまで言及している。また245条は「執行を怠るものがある場合においてその是正を図ることが困難であり、かつ、それを放置することにより著しく公益を害することが明らかであるとき」を訴訟の条件に据えている。
既に政府と沖縄県は1995年に知事・大田昌秀(当時)が民有地などを米軍施設として強制使用するために必要な「代理署名」を拒否した際に、法廷闘争をしている。高裁の裁判長を務めた大塚一郎は当時を振り返って「法律上はどうにもならなかった。行政法の解釈上の問題だからだ」と国勝訴の事情を解説している。今回も自治法で明記されている部分をめぐる裁判であり、国側が圧倒的に有利に展開するものとみられる。当然裁判は、翁長の行為が「著しく公益を害しているかどうか」が焦点となるが、二つの問題が提起される。一つは「普天間基地の危険性」である。奇妙というか、卑劣というか翁長は反対運動で普天間の危険性には一切触れていない。小学校が隣接し、住宅がひしめいている基地が「世界一危険」なことは自明の理であり、翁長自身も自民党県連幹事長時代の1999年、県議会で普天間基地の移転を主張、県内移設を求める決議を可決に導いている。この自らの主義主張を選挙に有利とみるやころりと変える節操の無さが、裁判でも問われそうである。「普天間放置」が公益を害することは明白だ。
次に普天間移設は日本と米国の国家間の重要な約束である。そして普天間に代わる基地の建設の必用は、ここ数年の安保環境の大変化をみれば明白である。親中路線を突っ走る翁長は、普天間と同様に尖閣諸島への中国公船の侵入には全く言及していない。自らの県の安全保障上の危機は放置しているのである。中国共産党幹部から「日本の馬英九」と呼ばれるだけあって、どこの国の県知事かとあきれる。辺野古への移設は日米同盟の要であり、中国は日本が移設に失敗するようかたずをのんで見守っているのだ。もちろん失敗すれば南沙諸島のようにカサにかかって尖閣諸島を手中に収めようとするだろう。これが公益を害することでなくてなんであろうか。訴状は移設に失敗すれば「米国との外交・防衛上の計測不能なほどの不利益をもたらす」と述べているが全く同感である。読売によると政府は「99.99%負けない」と述べていると言われ、朝日には「100%負けない」と述べているが、地方自治法から解き明かせば政府の自信も分かる。前述の内容に加えて、自治法は「訴えが提起されたときは、速やかに口頭弁論の期日を定め、当事者を呼び出さなければならない」と、行政への差し障りを考慮して「即決」の姿勢を見せている。第一回口頭弁論は来月2日に開かれることになったが、超スピードで展開した場合高裁の判決は1月か2月にも示される可能性がある。翁長は別途訴訟を起こす可能性があるが、いずれにしても辺野古埋め立てが中断されることはない。
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