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2015-10-13 10:05
「魔法の解決」ない米国のジレンマ
鍋嶋 敬三
評論家
南シナ海は米中対決の「決戦場」になりつつある。9月25日の米中首脳会談で溝の深さが浮き彫りになった。問題の深刻さは、オバマ大統領と習国家主席の間で信頼関係が築き上げられなかっただけではない。南シナ海、東シナ海を震源とする波動がアジア太平洋、インド洋全域に押し寄せ、二国間、多国間を含めた地域全体の不安定を加速させていることだ。それは日本の安全保障に直結する。攻める中国も守りの米国も、安全保障をめぐる対立で譲るつもりはない。「反腐敗」闘争で権力基盤固めを急ぐ習、次期大統領選挙を控え対中強硬派の共和党の批判を封じ込めたいオバマ、の両首脳とも、緊張緩和のため指導力を発揮する余裕がない。国際秩序の再定義をめぐる米中の主導権争いは地域の平和と安定とは逆の方向に働いている。
オバマ政権へのリトマス試験になるのが中国が埋め立てた南シナ海の人工島周辺12カイリ以内の軍艦航行問題である。9月17日の上院軍事委員会でマケイン委員長(共和党)から再三問い詰められたシアー国防次官補(アジア太平洋安全保障担当)は、2012年以来航行を実施していないことを認めた。米国は中国による南シナ海のほぼ全域の主権の主張や人工島を海洋法上の島として認めていない。2008年大統領選挙で共和党候補としてオバマ氏と争ったマケイン委員長は「最も目に見える航行の自由の主張は人工島の(領海に相当する)12カイリ以内の平和的航行だけだ」と主張、オバマ政権の対中「軟弱ぶり」を批判した。シアー氏はそれも「選択肢の一つ」と同意したが、マケイン氏は「3年間もやらなかった選択肢だ」と皮肉った。ハリス太平洋軍司令官はマケイン委員長の追及に「大統領、国防長官の指示があれば実施する」と答えたが、中国は翌日には「重大な懸念」と猛反発した。
南シナ海では2001年に米中軍用機の空中衝突事件があり、米中関係は極度に悪化した。人工島での3本の3000㍍級滑走路、港や大型灯台の建設など、軍事施設の建設が一気に進み、いずれは防空識別圏の設定も想定される。ハリス司令官はミサイル基地、第5世代戦闘機、戦闘艦などのネットワークが想像できるとした上で、「中国が南シナ海を支配するメカニズム」と指摘、「地域のすべての国への脅威になる」と警告した。航行の自由を標榜する米国はジレンマに立たされている。12カイリ以内に入れば、「主権侵害」とする中国と一触即発の軍事的危機を招く。しかし、このまま入らずにいれば、中国の主権を容認したと国際的にも受け取られかねない。「魔法の解決策はない」(シアー次官補)のが米国の悩みだ。
米国の課題は、覆い被さるような巨大中国の影響を受けるアジア諸国が良好な対中関係を維持しつつ、海洋防衛能力を高められるように、二国間・多国間のネットワークを構築することである。戦略国際問題研究所(CSIS)のラップフーパー海洋担当部長は下院外交委員会の証言で、南シナ海における米国の役割について、紛争当事国の対中関係の多様性に考慮する必要を指摘。フィリピンやベトナムなどの海上保安能力を高めるため、日本、豪州、インドなどとの協力体制を作り上げるべきだと提言した。米国が抱える大きな弱点は国連海洋法条約(UNCLOS)を批准していないことだ。米国が「航行の自由」を声高に主張しても、南シナ海や北極圏で法外な主張を展開する中国やロシアからは「条約を批准していない米国が文句を付ける立場にない」と一蹴される。ハリス司令官は「それが米国に不利益をもたらす」として批准を訴えている。米国の外交交渉力を強めるためUNCLOSの早期批准が米国の海洋安全保障戦略の第一の関門である。
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