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2015-06-07 09:15
時間稼ぎで核軍拡に励む中国
松井 啓
大学講師、元大使
ニューヨークで開催された核不拡散条約(NPT)再検討会議は1カ月に亘る議論のあと、5月22日に閉幕した。「世界の人々に広島、長崎を訪問して核兵器の悲惨さを見て欲しい」という趣旨の日本の提案が中国の反対で削除されたが、最終的にはこの文言も含め如何なる文書も採択できずに、閉幕した。中国の主張の理由は、「日本政府が自国を第二次世界大戦の加害者でなく被害者として描こうとしていることに同意できない」というものであった。ところで、国連安保理常任理事国は全て核兵器を保有している。2014年の各国の核弾頭保有数はロシア8,000個、米7,300個、仏300個、英225個、中国250個(推計)であった。中国は、後発核保有国であるから格段に虚弱である。
かつて毛沢東とスターリンが会談した際に、毛沢東が中国の核兵器開発に対するソ連の一層の協力を迫ったのに対し、スターリンが「核兵器は非常に危険であり、扱いを間違えれば数千人の人命が失われる」と諭したのに対して、毛沢東は「中国には何億という人口があるので、恐れはしない」と反応したので、スターリンは即刻ソ連技術者の引き上げを決意をした、とのエピソードがある。他方プーチン露大統領は本年3月に「昨年4月のウクライナ政変時に、ロシアは核兵器使用の準備ができていた」と発言し、最近にもウクライナ周辺に核兵器を配備する可能性をほのめかしている。現在中露は表面上蜜月の関係に見えるが、長い国境線を有する両国間の相互不信には長期的かつ根深いものがあることは、双方十分に認識した上のことである。
中国はもともと国際的な枠組みにはめ込められることを好まない国であり、「合従連衡」に対しては、相手を分断して「個別撃破」することを好むことは、最近の南シナ海での言動を見れば明確である。特に核弾頭保有数の格段のギャップを早急に縮めるためには、空白時間が是非とも必要である。NPT再検討会議での「広島、長崎訪問に反対」との発言は、その場を利用して日本に対する「歴史認識」いじめにより時間を稼ぎ、会議の最終文書不採用の結果に持ち込んだものと推測する。
近年中国が海軍の増強に励んでいることは周知の事実であるが、他方、核弾頭数でも米露に追いつき、できれば対等な発言力を持つ核大国なろうとの野望をもち(因みに、インドの核弾頭保有数は90~110個、パキスタンは100~120個と推測)、今後とも種々搦め手を使いながら時間を稼ぎ、その間に着々と核兵器拡充を進めるであろうことは間違いない。我々は常に心しておくべきである。
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