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2015-06-07 08:47

長期エネルギー需給見通し小委員会について

荒木 福則  無職
 今、政府は長期エネルギー需給見通し小委員会において、2030年エネルギーミックスを策定している。6月1日に出たその骨子案の基本方針は、安全性を大前提に、(1)自給率を震災前を上回る水準に改善する、(2)電力コストを現状より引き下げる、(3)欧米に遜色ない温室効果ガス削減目標を掲げ、世界をリードする、という3つの目標を同時に達成するとしている。しかし、ここでの「安全性を大前提に策定された」の意味は、「安全性を重視して議論する」こととは程遠く、単に「安全なものと見做した」と言う意味である。何故、小委員会はこのような言い方をするのかを、以下に明らかにする。原発の危険性の斟酌については、僅かに貨幣測定できた事故コストを単価に含めた他は、原子力規制委員会に丸投げしている。そして、この会議で決まるエネルギーミックスは、去年4月に公表されたエネルギー基本計画を踏まえて、その方針通り原発をベースロードとして用いるという成り立ちである。これでは、原発の安全性を置き去りにしたまま、上記の3つの目標を追求するだけの結果になっている。

 福島後のエネルギーミックスの一番の勘所は、再生可能エネルギーが原発に置き換わり得るかどうか、という点である。原発に反対する国民も、容認する国民も、供給の安全性を確保するためには、需要がどこまで減らせられ、3つの目標が、それぞれどこまで叶わず、どこまで耐えられるかを徹底究明してほしい、というのが本当の気持ちである。自律持続的エネルギー節減もし、再エネ賦課金も払って、しかも原発ゼロが達成され、電気は十分足りている今、国民の気持ちからすれば当然である。とどのつまり、再稼動が無い場合のエネルギーミックスを作り上げるということである。そして、その場合、何が困り、困りながらも耐えられる範囲か、耐えられないならば解消する術があるかどうか、出来ないなら出来ないでいいので、どこがどう出来ないかを徹底究明することが、この小委員会の役割だと思う。そうすることで初めて極限を打開する国民の力や工夫が生まれてくると思う。こうしておけば、再稼動する原発が実際あっても、他エネルギーとの振り替えは如何様にもなるのではないか。

 小委員会では、坂根委員長が「原資は再生可能エネルギーと省エネしかなく、どこまで実現できて、原子力と化石燃料を減らすのに振り向けられるか、を枠組みとする」と再三言うものの、上記の徹底究明の難関を素通りし、ベースロードの原発に他のエネルギーを配するとの主張が続いた。上記の基本方針の3つの点で「原発に代わりうる他のエネルギーは無い」と言うことに汲々とし、原発の良いところのみを拾っている。他方、太陽光発電のコストは本当は電気代の6割(15.2円/KWH)と安いのに、そのことは、固定価格買取制度(FIT)の買取期間の20年を安易に稼働年数とすることにより、隠蔽されている。つまり、殆どFITの買取価格そのものが、その再エネのコストと見做されている。ミックスは、この嘘のコストを根拠に、2030年の太陽光発電を7%(749億KWH)に止めようとしている。この数値は、接続保留問題の2014年6月時点認可量7178万KWHで叶えられる792億KWHで既に達成されている。太陽光の今後の普及をゼロとするつもりなのだろうか。何かの間違いではないか。委員の誰も指摘しない。

 住宅の屋根がまだいっぱい空いている。買取価格が邪魔をするなら、政府自身が正味コストでやれば、電気代は安くなる。今後の太陽光の普及をゼロとするわけにいかないだろう。長期エネルギー需給見通し小委員会の提案が、太陽光発電の今後の普及を忘れたエネルギーミックスだということが分かった。骨子案は「今回のエネルギーミックスは今後の動向により、少なくとも3年ごとの基本計画の検討に合わせ、必要に応じ見直す」と結ばれている。見直しがどうあれ、福島事故があった直後のエネルギーミックスが最も大事である。
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