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2014-12-19 07:02
ルーブル暴落でトラバサミにかかったプーチン
杉浦 正章
政治評論家
まるで大統領プーチンはロシアンルーレットの引き金を独りで引き続けているかのようである。ルーブル暴落という経済危機に直面しながらウクライナ介入をやめようとはしないプーチンは、国際政治の仕掛けたトラバサミのわなにはまって抜け出すすべを知らない。「仕掛けたのは米国とサウジアラビアである」と記者会見で名指ししたが、そうだとすれば、胸のすくように見事なる“陰謀”である。石油・天然ガスに輸出の7割を依存するロシア経済に目を付け、その暴落を謀れば、確かにロシア経済は危機に瀕する。プーチンは進退窮まった様相である。逆に日米経済にとっては、エネルギー価格の低落は願ってもないクリスマスプレゼントとなる。アベノミクスには紛れもなく“神風”である。石油減産が議題となった石油輸出国機構(OPEC)総会でサウジが減産に反対したときから、「なぜ自らの利益に反することをするのか」と頭に引っかかっていた。狙いはロシア経済にあったのだ。プーチンが12月18日の記者会見で「石油価格についていろいろなことが言われている。サウジとアメリカが共謀したとかだ」と憤まんをぶつけたが、ロシアの一番弱い脇腹へのオバマの一撃であり、膠着状態のウクライナ情勢の転換を狙ったものであろう。国際政治の「恐ろしさ」をつくづく感じさせる。
プーチンはまるっきり油断していたことになる。もともと米欧の経済制裁の効果が出るのはまだ時間がかかると見られてきた。ところが押している欧米がつんのめるようなロシアの経済危機である。オバマはさらなる一撃を用意している。それは議会で通った経済制裁追加発動法案の署名である。オバマは近く署名する姿勢であり、プーチンの方向転換を迫り続け、手を緩める気配はない。水に落ちた犬は叩かれるのだ。そもそもプーチンは、クリミア併合で国民的英雄視されて支持率が80%台となり、これを維持するためウクライナ東部への軍事介入を続けている。まさにポピュリズムの極致のような政策をとり続けており、国際的には孤立化の色彩が濃厚だ。逆に国内経済は石油天然ガス依存のOPEC並みの「不労所得経済」に徹して、産業基盤を整えることなどつゆほども思いが至らなかった。産業の近代化などより、手っ取り早いエネルギー輸出に力を傾注して、人気を保ってきたのだ。
おりから米国では格安のシェールガスが大量生産の時代に移行し始めて、これが石油価格の低落に大きな要因として作用した。西欧、中国などの不況も石油の需要を鈍化させ、価格低下を後押しした。この石油安の流れは構造的なものであり、中期的には反騰の気配はない。この西側の制裁と原油安というダブルパンチの窮地をプーチンが脱するには、欧米にひざまずいて、ウクライナへの介入をやめ、制裁解除を求めるしかない。制裁解除を得て、国内経済の近代化を成し遂げ、石油に依存しない経済構造を作り上げるしかない。プーチンは金融危機を「中央銀行の為替介入が早ければ、この事態にならなかった」と発言したが、自らの責任を転嫁するような姿勢では、この危機を脱することは出来まい。一番危険なのはロシアの民族主義をあおって、ウクライナへの介入強化を売りにして、自らの地位を保つという方向を選択することであろう。だが「戦時経済」が長続きすることはあり得ない。いくら外貨準備が4190億ドルあると言っても、じり貧では展望は開けない。
プーチンがかつてのソ連のように米国と対峙するような方針がなり立つと思っているとすれば、時代錯誤もいいところであろう。ロシアの国内総生産(GDP)は200兆円で米国の7分の1。軍事費は9兆円で米国の8分の1。もはや大国ではないのである。自らの大きさに合わせた穴を掘るべきであろう。プーチンは身分不相応の「火遊び」を早期にやめるべき時だ。日本経済への影響は短期的にはプラスに作用するものとみられる。エネルギー価格は1割低下すれば、国富が2兆円流出しないで済むといわれる。夏以来バレルあたり100ドルが50ドル台半ば。4割の低下は大きい。地方が苦しんだガソリン価格も1週間でリッター3円下がっている。灯油も値下がりしている。電気料金も引き下げに動かざるを得まい。プラスチックなど原材料も値下がりする。原油安は、産業の生産コストを引き下げ、活性化させる。円安による値上がりを相殺して、アベノミクスには追い風だ。安倍はこのチャンスを活用してアベノミクスの定着を図るべき時だ。米国経済も、「シェールガス」効果と相まって、消費や企業業績の好転につながるとみられている。米国株も日本株も上がり始めた。
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