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2014-08-18 12:10
中国の横車を抑える多国間協議
鍋嶋 敬三
評論家
ミャンマーで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)外相会議(8月8日)の共同声明は、南シナ海問題で「深刻な懸念」を表明した。中国との領土紛争で対峙するフィリピンやベトナム、一方では中国の強い影響を受けるカンボジアなどASEAN内部の対立から文言調整に手間取り、発表が10日にずれ込んだ。それでも共同声明には「南シナ海の航行と上空の飛行の自由の重要性を再確認」、中国との拘束力のある行動規範(COC)の早期締結に向けて実質的交渉のため対中協議の強化を明記した。ASEAN地域フォーラム(ARF)、東アジア・サミット(EAS)など一連の外相会議でも、中国の海洋進出が引き起こす摩擦が重要なテーマになった。中国は南シナ海の領有権問題を討議すべきでないとけん制してきたが、国際社会には受け入れられなかった。
岸田文雄外相は日本・ASEANやEAS外相会議で国際法に基づいて、力や威圧に頼らず、紛争の平和的解決を図るという原則を訴え、多くの国から賛同を得た。中国も参加する西太平洋海軍シンポジウム(4月)では「海上衝突回避規範」に合意している。国際法に則って行動するという国際社会の共通認識を多国間協議の場で確かなものにすることが、中国の横車を抑える早道であろう。ASEAN 会議を前に米国が主張を強めてきた。ラッセル国務次官補は4日の記者会見で「米国は領土主権の問題では中立だが、行動については中立ではない」と明言。同氏によれば、主権の主張は国際法に矛盾しないことが必須の条件だ。領土主権は土地(島)に基づくもので、単なる海上の主権は国連海洋法条約上も不可能として、南シナ海のほぼ全域を管轄下とする中国の九段線(「牛の舌」)の主張を否定した。この政府見解は2月の下院外交委員会で同氏が初めて公式に表明している。
さらに行動上の問題として、非外交的な手段で、現状を一方的に変更しようとする「問題ある行動には目をつぶらない」ことをケリー国務長官が7月の米中戦略・経済対話の際、中国に明確にした。「中国側(の理解)に混乱」があり、主権の問題で自国に有利なように解釈している恐れがあると見たからだろう。米国は緊張緩和のため短期の措置として中国による紛争海域の島しょの埋め立て作業凍結など「自発的な措置」も提案した。米国は中国に「大国として抑制を示す特別な責任」(ラッセル氏)を期待したが、中国は期間限定で緊張を高める行為の停止というフィリピンの提案を拒否した。それどころか、ベトナムと係争中の島々に5カ所の灯台設置作業を進めていることが明らかになった。中国に大国の責任を訴えても「蛙の面に水」である。
中国は「自国の主権と海洋権益を守り抜く立場は全く揺るがない」(王外相)と一歩も譲らず、領土、領域の拡張を着々と進め、既成事実を固めている。領土紛争は2国間の問題として多国間協議を受け入れない姿勢だ。ARF閣僚会議でも米中外相間で激しい議論が交わされたが、米高官は「ASEAN共同声明は中国にとって重大な後退だ」と述べた。中国は経済力にものを言わせて、ASEAN諸国の分断を画策してきたが、それが地域の反発を強めたという認識は薄い。中国が尖閣諸島のある東シナ海や南シナ海を自分の裏庭のように扱い、尊大な態度で国際社会の多数派を無視し続ければ、横車を押す中国の姿が一層際立つだけだ。それが「輿論戦」を世界に展開している中国には逆風になることを知るべきである。
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