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2014-07-26 12:23
中国における「法の支配」の実態
中兼 和津次
東京大学名誉教授
中国における「法治」の限界を示す例は数限りない。以前、中国に投資していたある実業家から聞いた話であるが、そのことを例示する典型例なので紹介しよう。
その実業家(いまA氏としよう)が中国のある地方で合弁事業を展開していたのだが、役員会といっても年に1度開かれる程度なので、実際の経営は全て中国側の投資家B氏に任せていたところ、ある年そのB氏の同僚であるC氏が不正経理を行い、会社の金を私的に流用して逃げてしまった。A氏は何度もB氏と交渉したが埒が明かない。先進国ではそうした場合最終的には裁判に訴えるわけだが、中国の裁判所は地元政府(党)に予算と人事権を握られているから、地方政府(党)とコネのあるC氏に敵わない。そこで中央政府(党)の有力者と交渉したところ、即刻中央政府(党)から命令が下り、地方にある銀行に被害を肩代わりさせたという。その結果会社、したがってA氏には実際上被害は無くなったわけであるが、この話は(1)権力とコネが法に優先する点、(2)当事者ではないはずの銀行がとばっちりを受けてしまった点で、中国社会における「法の支配」の実態を如実に物語っている。
次は私自身が体験した例であるが、1990年代の末に東大経済学部の訪中代表団の「秘書長」(幹事)として武漢に行ったときのことである。当時は空港に行く道が細く、しかも工事が行われていたこともあって大渋滞で、やっと空港に到着したのが、なんと離陸10分前だった。私はほとんど諦めかけ、上海で出迎えてくれる友人とどう連絡したらいいのかばかり考えていたが、一行に北京から付き添ってくれた社会科学院経済研究所の副所長が空港当局と掛け合い、なんとか乗り込むことができた。
ところが、30分前に搭乗手続きを締め切り、われわれ一行の座席はキャンセル待ちの乗客に売ってしまっていたため、席が足りないという。そこで子供何人かをどかせて、親の膝の上に移して席を確保し、ようやく上海に向かうことができた。あとでその副所長に「あれほど遅れてしまったのに、よく搭乗できましたね」と聞いたところ、北京や上海のような国際空港はだめだが、武漢のような地方空港なら「不規範(制度がしっかりしていない)」なので、交渉により何とかなるのだとのこと。もちろん、今は違うだろうが、当時はそういうことができたのである。「規範」とはルールのことに他ならない。交渉によってルールが簡単に破られてしまうこと、そこに中国の「法治」の実態が垣間見えてくる。
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