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2014-03-03 10:49
高まる米軍の抑止力低下のリスク
鍋嶋 敬三
評論家
ヘーゲル米国防長官が2月24日発表した2015会計年度国防予算は今年度に続き4960億ドル(約50兆円)となり、2年間で750億ドルもの国防費削減の大なたを振るった。財政危機を乗り切るため強制的に財政規模を縮小する超党派の予算法に基づくものだが、陸軍兵力を第2次大戦以後最小の44~45万人にまで減らす計画で、有事即応態勢にリスクを冒す際どい内容である。ウクライナ情勢が危急の最中、ロシアの軍事侵攻を抑え込めるか、「オバマのアメリカ」の力が試されている。ヘーゲル長官は軍事技術の進歩と拡散によって「米国の優位が当然と見なされなくなった時代」に入った、という「新しい現実」の認識を訴えた。しかし、この趨勢が続けば、米軍の抑止力低下のリスクが高まることは避けられない。
民主党政権支持のニューヨークタイムズ紙は「時勢に合った国防予算」と題する社説を掲げ、財政的余裕がなくなり、人件費の急激な高騰や世界の脅威の変化の中で取り得る厳しい選択であり、「必要かつ賢明な現実主義」と評価した。予算削減の目玉として、冷戦時代の対地攻撃機A-10やU-2偵察機の退役、基地の閉鎖などが挙げられる。海兵隊を8000人減らす一方、(1)テロ対策の特殊作戦部隊4000人増、(2)サイバー戦、(3)アジア太平洋へのリバランス(再均衡)の3つを重視する。しかし、A-10に代わるF-35戦闘機(航空自衛隊も導入予定)の調達が遅れ、空母機動部隊が11隻から10隻体制に減らされる可能性もある。
予算方針についてヘーゲル長官は、(1)イラク、アフガニスタン戦争以降は長期、大規模な戦争を想定しない、(2)潜在的な敵国に対する技術的優位の維持、(3)抑止に失敗した場合あらゆる不測の事態に即応し敵を打倒できる態勢という「3つの現実」に基づいて、「より小規模でより能力の高い軍隊」を目指すと説明した。そうは言っても、「信頼性の高い効果的な核戦力体制」を崩さないことはもちろん、「アジア太平洋重視のリバランス」の基本方針に変わりはない。統合参謀本部のパンドルフ戦略計画・政策局長は1月下旬、下院軍事委員会の公聴会で「太平洋陸軍司令官の階級が大将に昇格して権限を強化、2020年までに海軍だけでなく空軍も60%の戦力を同地域に配置する」ことを明らかにした。これは4年毎の国防計画見直し(QDR2010)に戦略目標として示された「統合エア・シー・バトル構想」と関連している。中国の接近阻止・領域拒否(A2AD)戦略に対抗するため、海軍と空軍の能力を統合する構想である。
クラッパー国家情報長官は1月、議会に提出した「世界の脅威に関する評価」報告書で、中国は米国の影響力を削ぐことに努めており、リバランス政策を維持できるのか、米国の意思に対する同盟国や友好国の疑念をあおり立てようとしているとの見解を示した。デンプシー統合参謀本部議長は2016年度以降も予算の強制削減が続けば、「リスクは増し、われわれが取りうる選択肢は劇的に縮小する」と警告した。ヘーゲル長官が示した国防予算の方針は3月4日のオバマ大統領の予算教書の柱となる。大統領は4月の日本を含むアジア歴訪で抑止力維持について同盟国や友好国の懸念を払拭する納得できる説明をしなければならない。同盟国が不安を強めれば、中国のより強硬かつ巧妙な外交・軍事攻勢を招き、地域情勢がさらに不安定化することにつながるからである。
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