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2014-01-29 15:13
デフレ論議の混乱
榊原 英資
青山学院大学教授
「脱デフレ」が政府の経済政策の重要課題のひとつに据えられ、マスメディアもこれを支持しているようだ。ただ筆者には、この一連の議論にはかなりの混乱があるように思える。まずはデフレーションの定義。通常デフレーションは景気後退と価格の下落が同時に起こることを意味する。しかし、日本の過去10年あるいは20年の「デフレ」という時には価格の下落のみを意味する場合が少なくない。というのは、過去10年の間にも、2003年から2007年は実質GDPの平均成長率は1.85%と成熟経済としてはかなり高いものだったのだが、この間も消費者物価は年平均0.05%で下がり続けたのだった。つまり相対的好況期にも、価格下落という意味での「デフレ」は続いたのだった。
もちろん景気回復・成長率の上昇は必要だし、また政策目標になりうるのだが、それに伴って物価を上昇させることは必ずしも望ましいものではない。2%の実質GDPの成長率がインフレ率0%で達成できれば、インフレ率を無理やり2%に上げることは意味がないことだといえるだろう。例えば、2012年の日本の実質GDPの成長率は1.96%とほぼ2%だったが、インフレ率(消費者物価指数)はマイナス0.04%と物価下落は続いたのだった。このインフレ率を2%に引き上げる必要がはたしてあるのだろうか。2%弱という同じ実質GDPの成長率であれば、インフレ0%の方が2%よりいいのは自明ではないだろうか。
日本のデフレーション、あるいは先進国全体のディスインフレーションの最大の要因はグローバリゼーションである。日本の場合、東アジアの事実上の市場統合が加わり、欧米よりもインフレ率が大きく下がってきているのだ。つまり、デフレやディスインフレーションは世界経済の構造変化によって起こっているもので、従来のように不況に伴って起こっているものではないのだ。とすれば、デフレやディスインフレーションを克服することは極めて難しいし、また必要でもない。もちろん実質GDPの成長率を上げることは必要だろう。日本の場合、当面2%程度の成長率を維持するために政策努力を続けるべきであろう。しかし、それは「不況脱却」ではあっても「デフレ脱却」ではない。物価は安定している方がいいし、それで2%成長が達成できるならそれに越したことはない。実は日本の過去10年の平均デフレ率は年0.12%。デフレというよりはむしろ物価安定だったのだ。
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