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2014-01-08 05:24
再増税、靖国なしなら政権の「3年越え」は可能
杉浦 正章
政治評論家
テレビの新春政局放談会はどの局も馬鹿と阿呆の絡み合いだったが、その“白眉”は共同通信出身評論家の「安倍さんは2020年のオリンピック開会式で挨拶する」だ。これを筆者は「新年初誤報」と名付ける。なぜなら首相・安倍晋三がやっと箱根の手前の大山を越えた段階で、気の遠くなるようなエベレスト越えを予言するようなものだからだ。現実の政治状況を見れば靖国参拝でケチがついたが、確かに「安倍一人勝ち政局」であることは間違いない。だからといって安倍晋三が最長の佐藤栄作を超えて8年の長期政権を維持するなどということは、さすがの筆者の「未来展望虎の巻」の中にもない。ただ今年の政権に立ちはだかる3つの難題をクリアすれば、過去6人の首相しか達成していない「3年越え」は達成できるだろう。3年を超えた首相とは吉田茂、岸信介、池田勇人、佐藤栄作、中曽根康弘、そして小泉純一郎だ。
そもそも長期政権の第1の条件とは何かと言えば、衆参で多数の与党を形成していることだ。その点衆院で自民単独で294議席、参院で公明などと会わせて133議席を達成したことは、盤石の基盤である。おまけにみんなと維新が補完勢力として作用しており、民主党は代表就任一年になるのに海江田万里は党をまとめるにはほど遠く、ボロボロと離党者を出している。ねじれがない強い政権ということは、秘密保護法案などで傷つくのは野党だけという結果をもたらす。まさに自民党絶頂期と同様の政治状況となっているのだ。この第1の条件に匹敵する第2の重要な条件は、好調な経済である。アベノミクスは当たりに当たり、税収は7兆円を超える増収であった。デフレ脱却も手の届くところに来たという印象を強めている。数を背景に順調な経済運営が出来ている政権が倒れた例は、過去にがんで倒れた池田勇人以外にない。
それではこの長期政権志向を阻害する要因は何かといえば、数で優位に立つ構図が崩れ、経済が停滞することである。安倍が長期政権を目指すなら、そのために必要なことといえば、図式は簡単だ。公明党を切らないことと消費税の10%への再引き上げを先送りすること、さらなる右傾化を戒め、バランスを取ることの3点に尽きる。集団的自衛権の憲法解釈変更に向けて安倍は維新やみんなとの接近をいよいよ強める傾向にある。公明党は代表・山口那津男が政権内野党とばかりにスピッツのように吠えまくり、安倍が感情的な対応をしそうな兆候が見える。安倍は長期政権を目指すなら、スピッツは無視しつつも、各選挙区で数万になる公明党票を意識しなければならない。同党の票は、もはや自民党候補にとって必要不可欠な構図となっているのであり、これをみすみす手放す手はない。集団的自衛権は極東の安保情勢を見れば紛れもなく必須項目だが、山口が「地球の裏側まで行って、アメリカを助けるのか」というのなら、その運用で「地球の裏側までは行かない」歯止めをすればよいのだ。一方で創価学会には公明党が政権党であるからなり立っている側面があり、同党にとっての最大の弱みである。政権を離れるに離れられないのだ。その辺の間隙を狙って球を投げ、関係を維持するのだ。
消費再増税は二つの側面から無理がある。一つはアベノミクスをつぶす恐れがあること。もう一つは1政権で2度の大幅増税はかつてなく、政権を確定的に直撃、弱体化することである。アベノミクスをつぶすということは、せっかく離脱の流れが生じているデフレを再び底なし沼に陥らせる可能性がある。いうまでもなくアベノミクスとデフレ脱却は車の両輪である。そもそも消費増税を首相・野田佳彦が2度に分けて行うことを決めた背景には、自民3代、民主3代と6代にわたり1年しか政権が続いていないことから、一内閣一仕事の思想が底流にあったのだ。ところが安倍政権は長期政権化の流れである。幸い税収も大幅な伸びを見せており、財務省の思惑にはまって再増税を断行し、政権を投げ出す事態になってしまう必要はない。2014年度のGDPの伸びも減速必至で、政府試算で1.4%、民間エコノミストの判断平均で0.8%でしかない。4~6月期は駈け込み需要の反動で大幅に下げるが、焦点となる7~9月期も大幅に改善を示すことはあるまい。安倍は年末に再引き上げかどうかの判断をするが、今度ばかりは先送りが正解だろう。10%に引き上げて、さらなる財政出動となる事態は悪夢とも言えよう。加えて1日100億円の国富が流出する原発停止は放置できない。早期再稼働に踏み切らなければアベノミクスを直撃する。
極東をめぐる安保情勢は安倍にとって追い風となる。防空識別圏設定の習近平と「千年恨」の朴槿恵の存在は、国民の反中、反韓感情を駆り立てて、安倍の保守寄り政治姿勢とマッチングするからだ。北朝鮮の恐怖政治も追い風となる。しかし靖国参拝のように極右だけが喜ぶような政治行動は慎むべきだろう。ところが、過去の首相で長期政権を維持した首相は皆靖国参拝を熱心に実施している。吉田茂5回、佐藤栄作11回、中曽根康弘11回、小泉純一郎6回といった具合だ。長期政権は7年8か月の佐藤に続いて、吉田、小泉、中曽根の順だが、靖国問題は中曽根時代に朝日新聞が近隣諸国をたきつけて政治問題化させてしまって以来、困難の度合いを増している。参拝は国論を2分させて、長期政権の条件などにはとてもなり得ない状況に立ち至った。とりわけ韓国、中国の対米ロビー工作が功を奏しており、小泉参拝で異を唱えなかった米政府が、今回に限って「失望」したのも、中韓の米議会や新聞への工作が効いている証拠でもある。長年に渡るデフレの泥沼に苦しんだ日本にとって、安倍はうまくいくと戦後の「中興の祖」になり得る。今年は昨年の“突撃”姿勢を改めて、バランス重視の政権運営に戻ることだ。そうすれば2016年夏の衆参同日選挙までは政権は続く。消費再増税は法改正して見送り、同日選の結果を見た上でも十分だ。
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