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2013-09-19 06:54
法人税をめぐる“閣内対立”は田舎芝居
杉浦 正章
政治評論家
食言もここまで来ると盗っ人猛々しいというのが、消費増税と抱き合わせの法人税減税案だ。いくら首相・安倍晋三自身が約束した覚えがないにしても、国民は完全にだまされたとしか受け取れまい。昨年8月の消費増税成立は、まぎれもなく社会福祉の財源確保のためという線で3党合意にこぎ着けたのであって、法人税減税を実現するためなどではさらさらない。おまけに減税の恩恵に預かる大企業は利益の蓄積である内部留保がジャブジャブあるではないか。一見、法人減税を主張する安倍と反対する財務相・麻生太郎の“対立”にまで発展しているように見えるが、昔の自民党政権はもっと演技がうまかった。ぎりぎりまで対立して見せた。しょせんは先延ばしでの妥協点をめぐる役割分担でしかない事が分かる。まるで大根役者の田舎芝居だ。
確かに発言からだけ見ると、法人税をめぐるやりとりは安倍政権を2分して、けたたましい。安倍が9月18日麻生に「経済対策は、景気の腰折れを防ぐためだけでなく、成長軌道を確かなものにする必要があり、一時的なカンフル剤のようなものでは不十分だ」と述べ、法人税減税を含めた具体策の検討を指示。これに対して麻生は「消費税率の引き上げによる増収分は、原則として、社会保障に充てることになっており、消費税率の引き上げに伴う経済対策として、法人税の実効税率を引き下げることは理解が得られない」と跳ね返した。真っ向からの対立である。これに安部側近や党幹部らも加わって、対立は鮮明化。経済財政担当相・甘利明が来年度からの引き下げを主張すれば、自民党副総裁・高村正彦が参戦して「この際、一気に法人税を下げようというのは強欲ではないか。いきなり数兆円もの実効税率下げというのは、国民の理解が得にくい」とエスカレートするばかりだ。
安倍にしてみれば、後生大事のアベノミクスへの影響を何としてでも最小限に食い止めたい。景気の腰折れは避けたい。本来なら消費税3%アップも先送りしたいところだが、とても無理と分かって5兆円規模の経済対策をやることで妥協した。消費税3%の税収が8兆円だから、2%相当分を“分捕った”わけだ。しかし、それが大型の補正予算案の編成や公共投資、低所得者層への現金給付、企業に設備投資を促すための投資減税など“一過性”の財政出動にとどまっているうちは問題ない。ところが安倍の言う本格的法人税減税となると、がらりと性格が変ぼうする。つまり冒頭述べた政府の食言へと変わるのだ。政府は国会対策でも、国民への説明でも、「社会福祉の充実のため」と消費増税の社会福祉目的税化を明言してきたのだ。それを法人税に回すのでは、まさに御政道が成り立たない。法人税を1%引き下げれば、4000億円の減収になる。もし5%引き下げるとすれば、2兆円を消費税8兆円から食うことになる。経済財政諮問会議の民間委員のなかには「法人税率の引き下げは、消費税率を上げることによって広がったスペースを利用してできるのではないか」と、愚の骨頂の意見を述べた者がいるというが、スペースなどどこにあるのか。言った委員の顔が見たい。
要するに、アベノミクスももちろん大事だが、あまりに“嘘”の露呈が早すぎるのだ。さすがの財務省も福祉目的税で拝み倒して成立を図った以上、手のひらを返すわけには行くまい。基本的には反対だが、安倍があまりに強硬なので恐ろしくなって妥協策をにじませるようになった。それを反映して、麻生も9月17日の記者会見で「引き下げは来年度以降にどれくらい税収が上振れするのか見極めてからだ」と発言し、中長期的な課題とするところまでおりた。少なくとも来年度は見送らなければならないという線に持ち込もうと言うわけだ。その妥協策としては、現在38%となっている法人税のうち、14年まで上乗せすることになっている復興特別法人税の3%を一年前倒しで廃止する案がある。加えて、今年実施した年間給与を5%上げた企業に対する減税を2~3%にまで上げた企業に引き下げる構想もある。いずれにしても本格的な法人税減税と言うより、弥縫策(びほうさく)だ。自民党税調会長・野田毅は「この秋の税制改正では検討しない」とまで言い切っており、安倍が当面は本格的法人税減税に踏み込むのは、容易ではあるまい。そこで安倍と麻生の“対立”がどこへ向かうかだが、対立から妥協案をはじき出す形を取ることによって、財務省内を納得させ、企業の了解も取り付けるという両面作戦が浮かび出るのだ。
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