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2013-07-13 09:59

シリア政策で2つに割れるオバマ政権

川上 高司  拓殖大学教授
 アメリカは反政府勢力であるシリア自由軍に武器の支援をすることを表明したが、その武器がアルカイダや他の過激派組織に流れないかどうかが、最大の心配ことである。シリア自由軍に武器を過激派組織に流さないように強く念押ししているが、実際にはどこまでそれが守られるのかはわからない。

 武器支援を強く推進したのはケリー国務長官である。最近ではシリア関与に積極的なケリー国務長官と、消極的なヘーゲル国防長官やディンプシー統合参謀本部議長が対立している。シリア上空に飛行禁止区域を設けることに関してケリー長官は積極的であるが、統合参謀本部議長は「やれないことはないが」と反論している。「飛行禁止区域を設けるとなると、やらなければならないことがたくさんあり、口でいうほど簡単ではないし、何よりも飛行禁止区域を設定するというのは、戦争行為そのものなのだ。戦争する前にできることはあるはずだ」と厳しい。

 統合参謀本部議長は、ケリー長官が空爆を主張した際にも「出口戦略がなければ空爆はしない。空爆のもたらす結果について国務長官にはきっちり認識していただきたい。それが空爆より先だ」とつっぱねた。もちろんヘーゲル国防長官も統合参謀本部議長の意見を全面的に支持している。イラクとアフガニスタンの戦争でアメリカは出口を見つけるまでに10年の歳月と多くの犠牲を払った。そのことを「過去のことだ」というには、新しすぎる記憶である。介入すれば、結局消耗して痛手を被るのは軍であり、「3度同じことを繰り返すのはごめんだ」という思いが、2つの戦争を経験した統合参謀本部議長にはあるのだろう。

 オバマ大統領自身はシリアへの深入りには慎重であるし、新たな戦争を始めることはしたくない。大統領はかつて「軍事介入はシリアにとっても、アメリカにとっても、良いことはひとつもない」と語っていたが、それはおそらくオバマ大統領の本音だろう。だから2年もの間静観を決め込んでいたのだ。だがシリア国際会議の開催の目処は立たず、シリアの難民や犠牲者は増える一方である。それでも希望はある。ロシアはシリア内にあるロシア海軍基地のタルタスから軍人を引き揚げ、民間人に置き換えた。その理由は、ロシア側からは公表されていないが、シリアの国際会議に向けてのなんらかの交渉が継続している可能性を示唆している。「戦争の前にできることがあるはずだ」という、ディンプシー統合参謀本部議長の言葉は重い。
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