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2013-06-10 10:34
「新しい形の大国関係」は可能か
鍋嶋 敬三
評論家
権力の座に就いて3ヶ月の習近平中国国家主席とオバマ米大統領の首脳会談(6月7ー8日)では習氏の目指す「新しい形の大国関係」が思惑通りに緒に就いたのかが焦点であった。既存の国際秩序に対抗する新興勢力の挑戦は国際関係に緊張をもたらす。そうならないよう平和裏に収めるのが大国の責任である。第2の経済大国にのし上がった中国は軍事的増強を急速に進め、アジア太平洋地域で紛争を拡大し、周辺国の懸念を強めてきた。首脳会談では協力関係の強化で一致したが、米中間でサイバー攻撃、知的財産権、人権問題や自由貿易圏作りなどを巡る基本的対立と不信の溝は埋まっていない。米国と対等な大国として振る舞うのであれば、中国は「責任ある利害関係者」として国際法に則った行動によって信頼関係の構築を図ることが不可欠である。
大国として果たすべき最も基本的な責任は透明性である。中国が「平和的台頭」というなら、何のための軍事的膨張か根拠を示して納得のいく説明が必要である。この首脳会談の1週間前にシンガポールで開催されたアジア安全保障会議(英国の国際戦略研究所=IISS主催)で英国のハモンド国防相は、質疑の中で透明性について、単に国防白書を発行すれば済むという話ではなく「透明性は一つの文化だ」と言い切った。軍事費の詳細を含む安全保障政策を具体的に説明することを通じて戦略的意図を明らかにし、世界の不安を取り除くよう説明責任を果たすことが、国家としてあるべき姿であり、国際紛争を抱える当事国ならなおさらだ。英国防相の発言は、透明性こそ民主主義社会を支える不可欠の柱だという考え方を端的に示したものであろう。中国にそのような「文化」が育っていないことが問題の根底にある。
透明性とともに重要なことは、国際ルール(法)の尊重である。法の支配が国内的にも国際的にも担保されていなければ、軍閥が横行した時代と変わりはない。南シナ海の紛争拡大防止のため東南アジア諸国連合(ASEAN)が提唱している中国との間の拘束力のある「行動規範」は、中国の反対で交渉が難航している。自国の主張通りの合意でなければ認めないという態度は、国際社会から受け入れられないだろう。アジア安保会議の際に開かれた日米豪3カ国国防相会議は(1)国際法に基づく紛争の平和的解決、(2)航海の自由、海上交通路の安全保障、(3)信頼醸成と透明性の促進、を柱とする共同声明を発表した。東シナ海(尖閣諸島)や南シナ海で脅威となっている中国に対するメッセージである。
米中首脳間で信頼関係ができたかどうかは今後の中国の出方次第だ。南シナ海で中国と係争中のベトナムのズン首相はアジア安保会議の基調演説で、アジア太平洋で何より必要なことは「戦略的信頼」であると訴えた。中国を名指しはしないものの、一方的な力の行使、根拠のない主張、国際法に反する行動などを列挙して批判、米中両大国は責任ある利害関係者として、具体的な行動によって戦略的信頼を促進し、強固にする大きな責任があると主張した。習主席はオバマ大統領との会談で「広い太平洋には中国と米国を受け入れる空間がある」と語ったと伝えられる。「中華民族の再興」の夢を掲げる習主席の大国志向に「太平洋を米国と二分して、アジアに覇権を目指す」気分が潜んでいるとすれば、国内でさらにナショナリズムをあおり、対外的に疑心を膨らませることになるだろう。
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