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2013-02-25 11:23
同盟強化を基に地球大の長期戦略を進めよ
鍋嶋 敬三
評論家
ワシントンでの日米首脳会談(2月22日)は同盟強化と環太平洋連携協定(TPP)交渉参加への道筋をつけた。安倍晋三首相はオバマ米大統領との間で「同盟の信頼と強い絆を完全に復活した」と宣言した。政権発足後、2ヶ月足らず、急テンポの成果である。7月の参院選挙で自公政権が過半数を獲得して政権が安定すれば、腰を据えた外交の展開が可能になる。安倍内閣は1月の東南アジア諸国歴訪で関係を強化したが、日米同盟を固め直した成果を基に中韓露との安定的な関係を作り上げる番である。オバマ大統領は「日米同盟はアジア太平洋地域の安全保障にとって中心的な基礎だ」と述べ、「日本とあらゆる分野で強力な関係を築きたい」との意欲を示した。財政危機、軍事費大幅削減の国内圧力によって、世界の危機に一国では対応し切れなくなった米国は、日本の助けを必要としている。安全保障面では米国の核抑止力に頼る日本が日米防衛協力や集団的自衛権行使の容認(憲法解釈見直し)などでこたえるのが同盟国としての務めである。
TPP交渉参加は新しい国際経済秩序形成への参画という点で大きな意味がある。米国はTPPを「経済的利益を超えた意味」(議会調査局報告書)があるととらえる。アジア太平洋地域は第二次大戦後、米国の戦略関係の「錨」の役目を果たしてきたが、最近は「中国の勃興に対して釣り合いをとる重り」として重視している。オバマ政権の「アジア回帰」戦略の上で、TPPを「アジアへのリバランシング(再均衡)の重要な要素」と見なすようになった。戦略思考の強い米国に対して日本国内のTPP論議は農業、医薬、保険など特定業界の保護の観点からの論議に集中しがちだ。「コメか自動車か」など個別品目の問題に矮小(わいしょう)化されれば「木を見て森を見ず」、TPP本来の意義を見失ってしまう。
日本の政治家に欠けているのは、地球大の視野と長期展望に基づく戦略である。小選挙区・比例代表制という選挙制度も作用して地元や特定業界の利益保護に走りがちだ。20年、30年後を見据えた日本のあるべき姿を構想する力にも乏しい。内閣の有識者懇談会がまとめた提言や答申が顧みられることなく「お蔵入り」することも珍しくない。このような政策決定システムでは外交、安全保障、通商、経済、財政、金融など日本の存立がかかる重要な政策で大胆な改革の手を打つことができない。常に状況を後追いする「状況対応型」の政策決定になり、「小出し、出し遅れ」と国際的にやゆされ、日本の国際的立場を損なってきた。
このような体制を根本から改める必要がある。国際秩序のパラダイム変化の時代にはなおさらである。日本に有利な世界は待っていては手に入らない。新たな理念に基づいて自国に有利な国際基準や規範を作り上げるため議論を主導する必要がある。新しい資源の発見や技術開発が世界の歴史を塗り替えてきた。中東の石油は20世紀後半の世界を牛耳るパワーとなり、ロシアは石油の輸出規制を周辺国への政治的圧力としてしばしば使った。しかし、米国産のシェールオイル、シェールガス革命は世界のエネルギー事情を一変させた。天然資源に乏しい日本はスーパーコンピューターやiPS細胞などの先端的技術革新(イノベーション)を国家戦略として大胆に進めれば活路は開ける。TPP参加がもたらすものは規制緩和を進め、グローバルな発想で長期的視点に立つ「新たな開国」である。安倍首相はワシントンでの政策演説で貿易、投資、知的財産権等の「ルールのプロモーターとして主導的地位を目指す」と宣言した。首相の政治・外交手腕が問われるところだ。
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