国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2013-02-19 13:25

もっと文武両道を

津田 直樹  会社員
 最近の運動部の高校生の自殺とか柔道の体罰問題などから感じたことは、日本の学生スポーツ界(中学から大学まで)に一貫して流れている「間違った常識」である。それは、その競技の能力を向上させることにのみ注力して、学生として学ぶべき学問は隅の隅に追いやられてしまっているということである。将来、その選手が競技から引退した時に、立派な社会人として通用するような指導をしていくべきであると思う。もちろん、学問だけでもそのような立派な社会人に成長させられることはできないが、競技と学問の両方をしっかりと身につけさせる指導が極めて重要である。正に「文武両道」を推進していくべきであると考える。中日ドラゴンズにドラフト1位で指名された慶応大学理工学部の福谷投手のことが、彼の素晴らしい学業成績から大きな話題になっている。履修した全ての科目で「A」を取ったこと、学会としては彼がプロ野球に入ることが大きな損失になること、大学院に進学してさらに研究に励んでほしいと周囲から期待されていることなどが記事になっている。わが国のスポーツ界にも例外はあるのだなと非常に嬉しく思っている。ここで私が言いたいことは、何も全員が福谷投手のレベルを目指すべきということではない。彼には、正に天賦の才が野球と学問の両方に備わっていたこと、中学時代から大学まで一貫して文武両道を貫いてきた彼の意志と周囲の理解があったからこそ、到達できた希有の例であることはわかっている。

 それにしても、多くの「スポーツ学校」ではその競技だけに集中しすぎているのではなかろうか?その結果として、肝心のその競技の進歩も妨げているのではないか?もっと幅広い人格形成のための「学問」をしっかりと身につけさせることが、その競技の進歩にも好影響を与えるのではなかろうか?朝の授業から前日のきつい練習の影響で、居眠りをしたり、グローブを磨きながら全く集中しないで、ひたすら昼ご飯や午後からの練習のことしか考えていないといったことが、ほとんどの「スポーツ学校」で日常的に行われているのではないか?こんなことが中学・高校・大学で日常的に行われていることに社会全体が違和感を持たないということが、何か大きく間違っていると思う。それどころか、猛練習に耐えた立派なスポーツ選手として称賛さえされている。競技だけしかしなかった選手の行く末は非常に限られている。アメリカのハイスクールでは、成績が一定の水準に達しない選手は、その競技の試合はおろか、練習にも参加出来ないと聞く。もちろん、また成績が水準を超える所までに戻れば、大歓迎で復帰できるシステムのようである。わが国でも具体的な水準をどこに置くかなどは議論が必要だが、もう少しだけでも学問に周囲の目がいくような環境作りが必要になってきている。

 非常に分かりやすい例を一つ上げると、日本の多くのスポーツ選手(ここにも嬉しい例外があることは承知しているが)が海外選手との会話ができなかったり、語学力不足のために海外の環境に慣れないで、実力を発揮できなかったりといった負の結果がたくさんある。ここで必要な英語力は中学レベルのものである。それが、全く到達できていない選手があまりにも多いということである。相手も英語を母国語にしていないケースも多くあるだろうし、その場合は彼らの話す英語は非常に理解しやすくなる。同じスポーツ選手であれば、中学の英語力があれば、少なくてもその競技についての会話は十分にできるはずである。その会話から、英語力がさらに向上して難しい内容についても交流ができるようになるはずである。審判に英語で抗議ができずに、泣き寝入りしたケースもあったと聞く。「手段としての英語」は勉強の目的もはっきりとしており、非常に勉強のし甲斐があるのではなかろうか?モチベーションをもって勉強できるはずである。

 わが国には古来「文武両道」という素晴らしい言葉がある。社会全体として、この言葉をもっと広め、かつ重要視していくべきである。それが、ひいては日本のスポーツ界の発展にもつながっていくことは明らかである。くどいようであるが、ここで言っている「文」は「福谷投手のレベル」では決してない。「中学の英語」であることを強調したい。一部の大学では、かなり以前から「文武両道」を全面に押し出して指導強化している。その大学の卒業生は、当然のことだが、一流企業からひっぱりだことなっている。その競技を社会人になって続ける者もいるが、辞めてからもその企業で立派な地位に就いている者がほとんどである。まだ一部であるが、日本でも「文武両道」の芽は少しずつ見えてきた。これが当たり前のことになる時代が来ることを祈っている。
>>>この投稿にコメントする
  • 修正する
  • 投稿履歴
一覧へ戻る
総論稿数:5636本
公益財団法人日本国際フォーラム