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2012-12-16 10:44
米NIC「世界潮流2030」を考える
角田 勝彦
団体役員
12月10日、米国の国家情報会議(NIC)は、今後15~20年の世界情勢を予測する報告書「世界潮流2030」を公表した。NICは、CIAほか多くの米情報機関の情報を一元化する目的で設置された情報共同体であって、アメリカ合衆国大統領のために中・長期的予測を行う権威ある諮問機関である。この報告書によれば、2020年代後半には中国が米国を抜いて世界最大の経済大国になるが、2030年に米中を含め覇権国家になる国はなく、その時点でも米国はトップの座を維持している可能性が高い、という。
米国の主導が終わり世界が多極化すること、米国の関与が持続されなければアジアの不安定さが増大すること、中東紛争激化の可能性があることなど、興味深い多くの予測を行っている。確かに多極化が世界の潮流かも知れないが、それは19世紀(ウエストファリア体制)への復帰ではない。ましてや無秩序を意味するものではない。台頭する新興国も、国連に象徴される武力不行使システム(集団安全保障体制)やIMF・WTO体制の恩恵を受け入れており、日本は日米同盟を基軸に現在の世界システムの強化・継続に努めるべきであろう。
問題は、米国一極体制の時代が終わり、パックス・アメリカーナが急速に終幕へ向かうことである。安全保障面では注目すべき2つの指摘がある。第1は、中国のナショナリズムが高まる中、米国の関与が持続されなければ、アジアの不安定さが増大することである。第2は、殺傷・破壊技術の普及である。たとえば小国も核ミサイルを獲得すれば大国を脅かし得る。さらに個人レベルでもサイバーや生物兵器で大規模攻撃が可能になる。米国の関与の継続は、尖閣問題を抱える我が国にとり重要な関心事である。12月14日、中国の国家海洋局所属の航空機による尖閣諸島付近での領空侵犯に際し、米国が「懸念している」と表明したこと、および中国政府に直接その懸念を伝達し、尖閣諸島が対日防衛義務を定めた日米安保条約の第5条の適用対象になるとの米政府の立場を改めて伝えたことは、高く評価すべきであろう。
核ミサイル関連では北朝鮮とイランが喫緊の課題である。北朝鮮が12月12日に発射した事実上の長距離弾道ミサイルは「射程1万キロとみられる」(韓国金国防相)由で、これが事実なら、北はロサンゼルスなど米西海岸の主要都市を射程内に収めたことになる。また韓国の柳統一相は、14日「(3度目の)核実験が続く蓋然性が高い。情報を総合すると核実験の準備が相当進んだ状態だ」と述べた。ミサイル搭載のための核小型化も進もう。イランについては、イスラエルのネタニヤフ首相は12月10日、イランが核兵器開発の最終段階に進むのに「あと2カ月半(という段階)まで近づいている」と主張した。核兵器製造には20%濃縮ウランが200~250キロ必要とされる。ネタニヤフ首相は9月27日の国連演説でイランが「越えてはならない一線」は20%濃縮ウランの蓄積量が、核兵器一個分に到達することだと警告した。すなわち、来年春にもイラン攻撃に踏み切る可能性を示唆しているのである。このように解決困難な問題は多い。しかし覇権国家がなくなっても、無秩序が来るとは限らない。諸国間の協力による世界秩序の維持に努めることこそ日本が歩むべき道である。
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