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2012-06-08 10:05

アフガニスタン戦争は終わるが、新たな戦争が始まる

川上 高司  拓殖大学教授
 NATOのシカゴ会議ではアフガニスタン問題が真剣に議論され、2014年までに撤退というスケジュールが改めて確認された。いよいよ10年をこえる戦争が終わるのである。戦争を終わらせたオバマ大統領は、アメリカにとってそれだけでヒーローだろう。だが、一方で新たな戦争がじわじわと広がりつつある。それはアルカイダに標的を絞ったテロリストのグローバルな追求である。その手段としてアフガニスタンで頻繁に行われている拘束作戦と、イエメンからパキスタンに至る地域で増大する無人爆撃機による空爆が使われその空爆域の拡大と回数の増大とともにもはや戦争行為ではないかとの反発も広がっている。拘束作戦については以前にもとりあげたので言うまでもないが、オバマ大統領が推進する空爆もまた新たな波紋を呼んでいる。

 オバマ大統領が就任以来、アルカイダとの戦いにおける空爆をどう推進してきたのかについてはニュー-ヨークタイムズ電子版5月29日付の記事“Secret‘Kill List’Proves a Test of Obama’s Principles and Will”に詳しい。ここでいう「殺人リスト」というのは、文字通り空爆で殺害するべきテロリストのリストのことである。オバマ大統領はこのリストを審査して、実施の許可を出す。要は一国の指導者がある人物の生死を決めるのである。その根拠はひとえに「情報」である。そしてその情報に基づいてアメリカにとって脅威かどうかを判断する。ではその情報が間違っていたらどうなるのか。それも想定内として殺害許可を出すというのである。

 オバマ大統領が空爆に熱心なのは、空爆が低コストでありアメリカ兵の犠牲がなく国民へのアピール度が抜群に良いという理由が大きい。そして確かにアルカイダ幹部を殺害するなど効果も上げている。またオバマ大統領が対テロ対策で頼りにしている対テロ対策担当補佐官のジョン・ブレナンは25年もCIAに勤めたベテランである。パキスタンの空爆を仕切るCIAの活動が活発になるのも不思議ではない。だが、まきぞえを食った一般市民の遺族の怒りははるかにオバマ大統領の想像を超えているのだろう。空爆が続くイエメンでは多くの市民が「アルカイダが正しい」と考えるようになってアルカイダ支持が強まっている。パキスタンでもCIAの空爆が熾烈さを増すにつれ、アルカイダのリクルートは順調になるという。

 アメリカの空爆はいまではアメリカの力の行使の象徴となり、統治権の侵害と市民の虐殺の代名詞となりつつあるという。かつてアメリカは、イラク戦争での捕虜虐待が明るみにでて世界の信用を失い威信を失墜させた。その威信が戻らないうちに空爆を続ければさらに国を汚すことにもなりかねない。それはノーベル平和賞という高貴なものまで汚すことにもなりかねない危険な道なのである。アメリカこそがならず者国家という烙印を世界から押されかねないことをオバマ大統領は認識すべきであろう。
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