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2012-05-19 19:49

日本の「失われた10年」は神話なのか

伊藤 和歌子  日本国際フォーラム主任研究員
 2012年の初め頃、“The New York Times” などの英米メディアにおいて、「日本のバブル経済崩壊後の『失われた10年』は神話なのではないか」、「日本は本当に言われているほどひどく衰退しているのだろうか」という議論が少なからず見られた。「神話」とは、「絶対の真理と思われてきたが、実は根拠のない話」という意味である。欧州危機のなかで円高が昂進している。「神話なのか、どうか」について、改めて考察する必要はあるのかもしれない。そもそも、欧米メディアは、なぜ「日本衰退論は神話ではないのか?」と設問するのであろうか。その背景を考えると、やはり、2008年のリーマン・ショックに端を発した世界同時不況、さらにはそれに追い打ちをかけた欧州危機があると思う。日本経済が、バブル崩壊後、10年にわたり経済停滞を続けていることは事実であるが、それにしても、欧米経済よりはましなのではないか、との見方があることだと思う。

 それでは「失われた10年」が「神話」なのかどうかを検証してみたい。「神話」だと完全に断定しきれない部分はある。たしかに、インターネットのインフラ整備、食事、衣服、自家用車などの物理的な豊かさの進行など、過去10年で改善されてきた部分は大いにある。しかし、統計をみてみれば、全人口に占める雇用者人口比率は1990年代前半から2000年代初めにかけて大きく減少しているし、失業率は1990年から2000年にかけて2%台から4%台へと倍増した。とりわけ深刻なのは若年層の失業率の高さであり、過去10年間に、人口全体の平均完全失業率は4~5%台で推移しているものの、15~24歳の若年層については8~9%台とほぼ倍という状態が続いている。若年層の雇用不安の長期化は、経済活性化にマイナスであることは自明であるし、また大きな社会的リスク要因にもなるだろう。

 「失われた10年」の真偽は、どこにスポットライトをあてるかで異なるだろうが、ともあれ、上記のように「失われた10年」といった一辺倒の見方をもう一度検証し直そうとする動きは、日本の経済成長のためには何が必要なのかを冷静に見つめなおす契機ともなるだろう。たとえば、2011年11月19日付の『エコノミスト』誌記事の「2000年以降の日本の財政赤字は少子高齢化という人口動態に起因する。つまり、高齢者の増加に伴い社会保障費が大きく増加する一方で、税収が減少しているのだから、赤字が増加して、当然だ」という指摘はもっともであり、景気回復ないし経済成長には、こうした的確な状況把握に基づいた経済政策が必要不可欠であろう。

 また、「失われた10年」あるいは「20年」といった長期的な経済停滞をもたらした主要因の一つは、日本経済に対する国民の不安心理だと言われている。先行きに対する不安が膨らみ続けることで、消費者マインドが凍りつき、1500兆円といわれる個人金融資産が市場に出回らないことが、主要因だと言われている。欧米諸国を中心とした海外から「実は、日本経済は『失敗』していない」というプラスの評価がなされること自体は、冷え込んだ消費者マインドを改善させることにも、いくらか貢献するのではないか。
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