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2012-01-27 14:37

秋入学実施しても、留学生拡大は夢物語

大藏 雄之助  杉並区教育委員長
 東大が秋入学を真剣に考慮することになった動機が留学の低迷にあることは間違いない。日本人学生の海外留学は年々減少傾向にあり、去年日本からハーヴァード大学に入学した学生は、なんとたった1人だという。もともと日本における留学志向は強くない。最近は、東大をはじめとする一流校に合格する自信のある学生は外国に出ようとはしない。

 入学期のズレとそのために卒業が遅れる恐れ、学費(欧米の大学はいずれも外国籍の学生に対する学費を急激に上げたので、円高のメリットも効かない)や渡航費等の負担増、英語力不安、帰国後の就職の問題など理由は沢山あるが、それらの隘路を乗り越えて、1960-70年代にはアメリカの大学で少なからぬ日本人の優等生が存在感を示していたのである。これが秋入学で変化するとは到底考えられない。それ以上に、外国から留学生を呼び入れることは難しい。アメリカの有力大学では学部学生の1割が外国人留学生で占められている。

 東大はその比率がわずかに2パーセント足らずにとどまっている。それは無理もない。中国や韓国ではアメリカの大学を出るのが出世の早道と信じられていて、IQトップクラスが太平洋を越えている。そして、その残りが国費留学生として日本に来る。それでも東大・京大・慶応・早稲田は規模も大きく、名前も知られているからまだマシだ。一橋大学はこれらに伍するために北京に事務所を開いて、数こそ少ないながらも中国で重要なポストに就いている卒業生を組織して優秀な後輩を送り込んでもらおうとしている。

 それでも漢字文化圏の若者は比較的短時間で日本語をマスターする。だが、欧米の学生が日本語の授業を聴き取れるようになるまでには数年を要するであろう。彼らを受け入れるには大学の講義の半分くらいを英語で行わなければなるまい。教授たちがその負担に耐えられるだろうか。また、日本人の学生がそれを消化できるだろうか。さらに、日本は奨学金制度が外国に比して貧弱だ。特に、成績優秀者に対する返済不要のインセンティヴが無い。秋入学実施だけでの留学生招致拡大は夢物語である。
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