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2011-06-08 14:10
原子力発電の主流化に潜む国民経済上の問題点
西村 六善
元地球環境問題担当大使
原子力が長期的に主流化することのない「つなぎ電源」であることは、6月6日にIEAが発表した「世界エネルギー白書」の長期見通しでも明らかだ。これによると2035年における一次エネルギーの全球総需要の僅か8%が原子力由来とされている。自然エネルギーは19%とされている。一方、わが国では、フクシマの故といえども、現実的に見て原子力を直ちに廃止することは出来ないだろう。既存原発は安全運転で退役まで使用し、節電に努め、火力発電に頼り、急速に自然エネルギーに舵を切るのが最も現実的だ。
しかし、原子力を推進するべきだとする議論も依然として弱くはない。賛否が渦巻いている状況である。この議論で最も根本的な論点は、深刻な放射性廃棄物の処理について、最終解決のめどがついていないことだ。ここが未解決でありながら、原発を推進することは、公共政策としてはあり得ない欠陥政策だといえよう。国民経済的にもかなり問題がある。「原発の総合発電コストは他の電源より安い」という従来の説明の欺瞞性は、直ちに暴かれた。しかし、問題はこれだけではない。もっと深刻な問題がある。
それは原子力発電事業は新規参入が不可能な巨大システムだということに由来する。新規参入が無い産業分野はどうなるか?独占が蔓延する。この場合、電力と云う経済の最重要の基礎インフラに独占が蔓延する。しかも、従来の計画では現在の30%の原子力発電のシェアを、2030年には50%にする予定であった。そもそも電力会社は地域独占によって保護され、総括原価主義によって生産コストを料金に自動転嫁できるという特別の優遇システムで保護されているが、その上更に原子力発電が50%にまで主流化することになれば、既存の電力会社の独占的立場は強大になる。
日本の電力価格は、既に外国の2倍だといわれている。原子力を主流化することは、日本の高コスト体質を一層硬直化し、更にそれを恒久化することになる。日本産業の利益率を押し下げ、国際競争力を弱体化させる。どれ程の国民経済上の損失か?価格の歪みこそ競争力の大敵だ。真摯に国際競争力を向上させようとする企業努力を裏切る結果を生む。政治と行政が国民経済の真の発展を追求するなら、原子力発電に由来する独占体制を、電力供給の中心に据えるべきではない。
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