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2011-03-20 18:21

日本経済の果実をよそに持っていかれないために

河東 哲夫  元外交官
 日本人は、日本の企業が高度成長以後の時代、高い生産性にまかせて(実態は、欧米に比べて低かった賃金がものを言ったのだが)、世界市場を席巻したことを忘れている。当時の日本は、まるで産業革命の成果を独占するかのごとき勢いで「世界の工場」と言われていた。

 それが今では、外国人に日本企業の株を買われ、高い配当をせっつかれるものだから、自社の社員への賃上げもままならない。こうして富が海外へ流出するものだから、内需もなかなか盛り上がらない。その上、社長まで外国人ということになると、もう言うことはない。産業革命の果実を手にしたと思ったのもつかの間、生産性の競争で勝ったはずの外国人に、いとも簡単にその果実を持っていかれてしまうのだ。外国語ができず、創造的な思考力にも、世界に対する理解にも、欠けているために。

 そして、今のように工業が空洞化すると「大丈夫。20世紀初頭のイギリスと同じで、海外に作った工場から利益が還流するから、大丈夫。所得収支の黒字は、もう貿易収支の黒字額に並んだじゃないか」という声が出ている。

 でも、これも脳天気じゃないのか? 超大国であった英国や米国の企業(エネルギー関係が多い)でさえも、中東などでは、いとも簡単に接収され、国有化されている。だとすれば、海外に武力を展開できない日本の企業は、それよりももっと脆弱な立場にあるだろう。接収まではさすがにされないでも、合弁相手に追い出されるとか、当局から収益や配当の日本への送金を制限されたりする局面は出てくるだろう。それをできるだけ防ぐため、他の諸国を語らって、WTOなどで手立てを講じておくべきだと思う。
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