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2011-02-22 17:18
「パンダ外交」に思う ~中国国内の民主化運動を慎重に見守ろう~
星野 三喜夫
新潟産業大学経済学部教授
チュニジアやエジプトの長期独裁者の追放は、ツイッターやフェイスブックなどのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を通じた呼びかけが大きな力になった。そもそもはハーバード大学の学生が友人を作るために始めて、それが全米の大学から高校、社会人へと普及の輪を広げることになったのが、SNSである。それが、現在、中東や北アフリカでの民主化と反政府運動の情報伝達の武器になっている。民主化のうねりは世界の他の国にも伝播の様相を示し、1989年の天安門事件以降22年の間、ウェブどころかテレビの視聴さえも含めて統制下においてきた中国でも、政権側は「不都合」な情報の流入を禁ずる統制強化の挙に出ている。
最近の民主化と長期独裁政権打倒の動きは、ごく普通の一般市民が直接国の政治に大きく関与する、新しい形の「ネット型」民主主義といったものが、今後更に発展する可能性を示唆している。一方、われわれはネットの威力に潜む大きなリスクも認識することが必要であろう。SNSの強い伝播力が悪用され、特定少数の人によって誤った世論が形成される懸念があり得るからである。一種の世論操作によってバイアスの掛かった世論が形成され、それが国や世界の政治情勢を不安定化することが考えられる。その種のリスクに対してしっかりした識別能力を持つことが重要である。
翻って、相も変わらずコップの中の政治ごっこが続いている日本。昨日(2月21日)、中国の貸与によって2頭のジャイアント・パンダが3年振りに上野動物園にやってきた。新聞・テレビの報道も中国式VIP「熱烈歓迎」ムード一色で、早期の公開期待を煽っている。確かにパンダは愛くるしいし、その「来日」の経済効果は否定するつもりはない。ただ、日本の「対中感情」を和らげるために派遣されたと思しき2頭のパンダには申し訳ないが、「パンダ外交」に踊らされて、われわれ日本国民が中国で現実に起こっていること、中国が行おうとしていることに目を背けることがあってはならない。
中国国内では言論・情報統制が続き、経済成長の下で生じている貧富の格差拡大、若年層の失業、腐敗の蔓延等表には出ない(出せない)国民の不満が鬱積している。そのような状況にあって、捌け口を外に求めるための世論操作、加えて、昨年から明白となった日本の主権を侵害しようとする領土拡大の野心等々。われわれはパンダ2頭と引き換えに「感情」の目くらましを受けてはならない。現在、鍋の蓋を押さえられながらも沸々とたぎろうとしている中国国民の民主化要求の動きが、いつ、どのような形で沸点に達するのか、注視していく必要がある。
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