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2006-08-07 09:47
出口が見えないレバノン紛争と我が国の立場
甲斐紀武
日本国際フォーラム所長
1.悪化の一途を辿るレバノン情勢
イスラエルのレバノン攻撃が始まって既に4週間以上が経つが、レバノン情勢は悪化の一途を辿っている。イスラエルはヒズボラに拉致された2名の兵士を取り返すと共に、この機会にヒズボラ勢力を南部国境地帯から一掃し、国境地帯の安全確保を目指している。かたやヒズボラがイスラエル兵士を拉致した背後にイラン、シリアが控えており、特にイランは核疑惑問題への注目をそらせる目的があったと言われているが、ヒズボラは現在でもこれらの国から援助は受けているものの、その政治路線はイラン、シリアからは独立しており、今回の事件へのイラン、シリアの関与はないものと考えられる。むしろガザでハマスがイスラエル兵を拉致したことに呼応した動きと考えられる。イスラエル軍はもとより強力であるが、ヒズボラも資金源として①シリア、イランからの援助、②自らが行っている商取引、密貿易からの収益、③海外のレバノン人からの仕送り等を資金源としており、年間約8億ドルの収入があると言われている。保有する兵力は1万人を越えないが、イラン、シリアからの武器援助があり、ヒズボラの財政、軍事基盤はしっかりしており、その抵抗力は簡単に衰えるものではない。更にヒズボラはシーア派を中心としてレバノン国民の4分の一以上の支持を得ていると言われる。
2.ヒズボラの非難から英雄視、神格化へ
イスラエルはレバノン南部を約20年間占領した後、2000年5月に一旦撤退し、以後国境地帯では大規模な武力衝突は発生していなかった。今回のイスラエルのレバノン攻撃はこの機会にヒズボラ勢力を徹底的に一掃しなければ、国境地帯とイスラエルの安全が長期的に確保されないと判断したのであろう。米国はヒズボラをテロ組織と見なし当初は無条件でイスラエル支持の立場であったが、その後紛争の解決を模索し始め7月30日のカナでのイスラエルの空爆によって多数の子女を含む50数名の犠牲者が出たことを憂慮してイスラエルに72時間の停戦を実施させた。しかし、この停戦も効果がないまま8月2日で期限が切れ、イスラエルは大規模な攻撃を再開している。アラブ諸国の官民の反応としてイスラエルのレバノン攻撃が始まった当初はその契機を作ったヒズボラを非難する声が強かった。特にヒズボラが勝利するようなことがあれば、それは中東での原理主義の動きを加速するとの懸念があった。しかしその後イスラエルの攻撃がレバノン市民に過剰な犠牲を強いていることから、現在では一致してイスラエルを非難し、ヒズボラの指導者たるナスララは英雄視、神格化されている。
3.先ず停戦が必要とする国際社会
紛争の泥沼化を防ぐには先ず停戦が必要であろう。国連や米国が中心となってイスラエル、ヒズボラの兵力を引き離し、安全地帯を確保出来るだけの強力な国際部隊の早急な派遣が必要である。これはレバノン市民の犠牲をこれ以上拡大させないための必須の措置である。中東情勢の安定は我が国にとっては原油の安定的確保の観点から死活的重要性を持っている。しかし現在までのところ、我が国は欧米諸国の停戦の話し合いには加わっていないし、手を拱いているように見える。元来レバノン紛争はパレスチナ紛争の一局面であり、停戦で一時的な平穏状態は生まれても、その根本であるパレスチナ紛争に解決策が見いだされない限り、レバノン情勢の長期的安定化は難しい。しかし先ず当面の停戦を実現することは緊急の要請であり、我が国は今こそ、ヨルダン、モロッコ、チュニジアと言ったアラブ穏健派諸国と共同して、仲介者として停戦の実現に貢献すべきである。
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