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2010-09-21 16:58
恫喝外交で得られるものはない
鍋嶋 敬三
評論家
南西諸島の尖閣諸島沖で海上保安庁の巡視船に中国の漁船が衝突、中国人船長が逮捕された事件で、中国側は9月19日、「船長を即時釈放しなければ、強烈な対抗措置を取る」と強硬な姿勢を表明した。王光亜筆頭外務次官は日本の丹羽宇一郎駐中国大使に対し「今後どのような事態になるかは、日本の選択にかかっている」と警告したが、日本の法制度を無視した内政干渉であり、中国の恫喝外交が本性を現した一幕である。中国の漁船は、日本の領海を侵犯、停船命令を無視したうえ、故意に巡視船にぶつかってきた。領土、国家主権にかかわる重大な問題で、中国の一方的な言い分を排し、日本の主張を毅然と主張し続けなければならない。日本がどのような態度を取るかは、世界が見ている。
事件を巡る中国の動きは極めて迅速で、予め周到に計算されていたかのようである。事件後、(1)東シナ海のガス田日中共同開発を巡る条約交渉の延期、(2)全国人民代表大会(国会)代表団の訪日延期、(3)ガス田「白樺」に掘削用とみられる機材の運び込み、(4)日中間の閣僚級以上の交流中止、(5)8月下旬に合意したばかりの日中航空路増便のための協議中止、(6)日中石炭関係協議の延期、(7)日本青年1000人招待の延期など、矢継ぎ早である。日本公館へのデモも始まった。国連総会での首脳、外相会談も行われない見通しだ。前原誠司外相は「日本の法律にのっとって、粛々と対応するに尽きる」と述べたが、対外的に日本の主張を明確なメッセージとして発すべきである。
中国の軍事力増強は、東アジア・太平洋地域で不安定要因となっている。中国海軍の戦略が「近海防御」から「遠海防衛」に転換しつつある。中国海軍の活動が太平洋で活発になっていることから、第一列島線(南西諸島、台湾、フィリピンを結ぶ線)と第二列島線(小笠原諸島、グアムを結ぶ線)の間での作戦を想定している(防衛省防衛研究所編「東アジア戦略概観2010」)とされる。このような海洋戦略は資源権益の確保を狙う国家戦略の一環で、南シナ海の領土紛争の根も同じだ。中国の尖閣諸島への領有権の主張は周辺の石油、天然ガスの埋蔵が伝えられた1970年代降のことである。今度の事件を単なる漁船による偶発事件とみたり、対日強硬姿勢を国内向けのポーズと見るのは甘いと言わざるを得ない。中国が求める「政治的配慮」にこたえることは、日本が主権で譲歩したと映り、「領土問題は存在しない」とする日本の立場を崩すことにつながる。
民主党の対中外交は、腰が引ける姿勢が目立った。2009年12月、鳩山由紀夫政権の最高実力者だった小沢一郎幹事長(当時)が国会議員140人を引き連れて故錦涛国家主席に会わせ、その直後に習近平国家副主席を慣例を無視して天皇に会見させたりしたことが、日本を軽く見る中国の姿勢を一層強めるのに役立った。ことを荒立てずに穏便に済ませようという「ムラ社会」の日本式の付き合い方は、戦争の瀬戸際までせめぎ合う国家間の外交闘争では、敗者への道である。中国にとっても日本を脅したところで、得られるものは日本人の対中不信感、嫌悪感を増幅し、アジアの安定を損なうだけである。対立をあおらず自制するのは、中国である。
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