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2010-04-06 21:42
女性たちを幸せにできないロシア
菊池 由希子
国際関係専門家
モスクワでコーカサス系寡婦による連続爆破事件が起きた。コーカサスの武装勢力は犯行声明を出したが、どうして17歳と28歳の女性にやらせて、男たちはやらなかったのだろうか。それに、17歳の少女は夫であった戦士から「自分が死んでも立派に生きていくように」と言われていなかったのだろうか。もし「後を追って、殉教するように」と言われていたり、武装勢力の男たちの命令で爆破させられたとしたら、今の反政府勢力はコーカサスの市民から支持されないだろう。
また、モスクワの地下鉄には、要人や当局の人間はほぼいない。これがルビャンカ駅を出たところにあるFSB(旧KGB本部)を狙ったものであれば、奇襲作戦となり得たが、地下鉄での爆破は、無差別テロとしかみなしようがない。これはロシア当局には非常に好都合な話で、ロシア政府は、早速国民の反コーカサス感情を煽り、コーカサス系の国民たちをより一層取り締まりはじめ、そして国際テロとの戦いを国際社会へ向けて強調した。つい先日、世間の注目を浴びていた27歳のカリスマ戦士が殺されたこともあり、コーカサスの敵が弱体化する中で、今一度、北コーカサスやイスラム系国際テロ組織が国民の敵であるという機運を作り出すのに、絶好のテロ事件となった。
いつもロシアで起こるテロは不可解であるが、今回も例外ではない。第一に、アラブ人のように黒いヒジャーブを着てピストルを持った17歳の女の子とその夫であった戦士が映っている写真が公開されたことである。北コーカサスの男性は、妻と二人で写真を撮ることは恥であると考えているので、写真が存在すること自体極めて稀であるし、ましてや有名戦士が、あえて妻を危険にさらすことになる写真を撮ったりはしない。しかも、こんな写真を当局は一体どこから入手したのだろうか。
また、28歳の女性が生存している戦士の妻である可能性が高いということだったが、有名戦士の親戚、まして妻などの行動は、マークされていて当然なので、容易にモスクワに出てくることができたというのも考え難い。3月28日の朝に母親と市場に出かけた後、本人から電話があり、「自分で帰る」と告げていることである。彼女が本当に自分の意志でその後モスクワへ行き、自爆したとは到底考え難い。彼女の両親は「娘にイスラム原理主義の傾向は見られなかった」と言い、戦士の妻であるという噂も、本人は認めてはいなかったという。たとえ妻であったとしても、寡婦でもなければ、両親もいるので、自爆に至る動機はほぼないといえる。
いつものことではあるが、真実が明らかになることはないだろう。しかし、一つだけ確かなことは、愛する人を失い、絶望の淵にある乙女心を、「安い爆弾」としかみなさない大人の男たちがいることである。この子はきっと、夫と平穏に故郷で暮らせたら、それで幸せになりえたはずだった。しかし、今のロシアはそんな当たり前のことさえも許さない。強く純粋な愛と信念を持った若い女性たちが、市民をテロの脅威に陥れる目的で爆破させられる、それが今のロシアの中で起こっていることなのだ。ロシア政府は国民に人間らしく生きるために最低限必要な権利や暮らしを保障していない。そこに、国際社会は目を向け、ロシア政府に絶望している市民たちに手をさしのべていく必要がある。
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