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2006-05-29 09:00

連載投稿(1)靖国は外交戦線のガダルカナルだ

小池 享  大学教員
 貴フォーラム政策委員会における「変容するアジアの中での対中関係」の審議は、それ自体が重要なテーマであるだけでなく、ポスト小泉の日本の外交路線にかかわる問題であり、かねて絶大な関心をもって見守ってきましたが、このたび第3回会合が開かれた由で、その「メモ」が発表されました。つきましては、「メモ」の中で紹介されている戦後処理に関連する3つの論点について、本日から3回にわたり連載投稿の形で私見を述べさせてもらいます。まず、歴史認識・靖国問題について述べます。

 「ドイツと日本の違い、ヒトラーと東条の違いをもっと説明し、分かってもらう必要がある」との意見表明があった由ですが、そしてそれは日本人として当然の意見表明ではあると思いますが、しかしそれにしても、そのような弁解調の議論に終始する日本の姿を見る世界の目がどのようなものになるか、「日本はあの戦争を正当化するつもりでいるのだろうか」「だとすると、状況さえ許せば、日本はまたもう一度あの戦争をやりたいと思っているのだろうか」などと反応するかもしれないことに想い至らないのであれば、日本人はあまりにも悲劇的(あるいは喜劇的)な井の中の蛙ではないでしょうか。別の意味で日本人はあの戦争から何も学ばなかったことになるのではないでしょうか。それは「正しいか、正しくないか」の次元の問題ではなく、「利口か、馬鹿か」という次元の問題としてそうなのです。

 その意味では「東条首相の合祀されている靖国神社を日本の総理が参拝することの是非という形で問題が提起されるかぎり、日本が中国と外交戦を戦う場として靖国神社は不利な戦場だ。もっと国際世論を味方にできる戦場を選んで戦うべきで、靖国という戦場にはいつまでも固執すべきでない」との発言こそは、日本にとってのこの問題の位置づけを的確に喝破したものとして高く評価したいと思います。中国と論争するのなら、人権や民主主義の現状を論争すべきなのであって、それをせずに靖国参拝をテーマに論争している現状は、それ自体が日本外交の失敗ではないでしょうか。これ以上展望の無い消耗戦を避けなければなりません。この戦場からは一日も早く離脱することが国益であることは、あの戦争でガダルカナルやインパールから一日も早く撤退することが国益であったことと同じです。それに固執することが国益を消尽しています。次期首相には、この外交戦線からの迅速かつ名誉ある撤退を構想してほしいと思います。
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