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2009-12-07 07:42
「日本の盧武鉉(ノ・ムヒョン)」と「君側のミスリード」
杉浦正章
政治評論家
外交・安保政策がブレーン・寺島実郎(三井物産戦略研究所会長)に引き回されているという議論が台頭しているが、むしろ問題は首相・鳩山由紀夫自身にある。自らが特異なアドバイザーを偏重しすぎるのだ。その結果ワシントンにおいて「反米指導者」「信用する人はゼロ」と言われるまでに自らをミスリードしてしまったのだ。鳩山だけでなく、官房長官・平野博文も“帰依”しているという。一民間学者が国家の外交・安保政策にこれだけマイナスの影響を与えたケースは戦後ない。ブレーンに誰を選ぶかはすべて鳩山自身の政治家としての判断力の問題であろう。国民も気づき始めた。12月7日付読売新聞によると、支持率調査で「指導力ない」が14ポイントも増加した。
NHKの10月25日の討論番組で外交評論家・岡本行夫が珍しく語気を強めて、「全く同意できない」と真っ向から反論した。寺島が「米軍がハワイ・グアムまで引きさがることをしっかり日米間で議論しなければならない」と述べたのだ。岡本は「憲法上の制約を安保条約で補完している。防衛費を減らすことが出来ているのは、主要国で日本だけだ」と正論を述べた。寺島は「日米同盟で飯を食べてきた人たちの不安感、もたれ合いがある」と毒づいていた。学者の間で寺島批判は根強く、やはり先月15日のNHKでは、拓殖大教授・森本敏が「総理にきちっとした防衛・安保のアドバイザーがいない。ことを分けて説明できる人がいない。危機感を持っている」と発言した。暗にアドバイザーが寺島であることを問題視した発言であり、この「危機感」がまさに的中しつつある状態だ。森本は5日付読売新聞の対談でも、「適切なアドバイザーがいないこともあって、鳩山首相の基本的な知識が不足している」と繰り返している。
その寺島の動きが陰に陽に目立っている。寺島は鳩山新政権下での日米同盟の再検討を強く主張している。民放テレビでも「日米関係のあり方を抜本的に見直すべき時期だ。在日米軍基地の使用実態の調査を行い、不必要な基地の返還交渉を始めるべきだ」と述べている。明らかに鳩山の「常時駐留なき日米安保」構想の源泉となっている。昨年岩国市で鳩山は「必要な時だけ米軍に来てもらって、日本を守ってもらう。そうでない時は日本の領土に基地を設けなくても、構わないのではないか。私の持論だが、米軍の常時駐留なき安全保障という議論を言っている」と明言している。寺島の“理論武装”に基づいている発言だろう。ようやく世間も分かって来たが、筆者が9月3日の記事で指摘したように、鳩山は確信犯的に反米と言っても過言でない。「脱米入亜」主義なのである。ニューヨークタイムズに掲載された鳩山の「反米論文」も、寺島の“影響下”にあったという見方が強いようだ。
寺島は先月27日午後7時18分から同58分まで鳩山と会談している。40分は長い。その直後に訪米している。これも鳩山の密命を帯びて普天間問題の感触を探りに行ったに違いない。読売新聞によるとワシントンでの寺島は「日本は独立国として、在日米軍を今の3分の2まで減らすべきだ」と有力知日派を説いて回り、関係者を当惑させたという。その後の鳩山の「普天間越年」「グアムへの移転」発言も、社民党の党内事情と小沢一郎の意向に加えて、寺島が何らかのサインを送っている可能性が強い、と筆者は見る。まさに国家的なミスリードにつながっているのだ。寺島の甘い安保理念は、北朝鮮の核保有が現実となり、中国が海軍力を増大させて、北東アジアの覇権を目指し、米軍の核抑止力が重要になっている時代の要請に応えるものではない。「獅子身中の虫」(自民党幹部)だそうだが「君側のミスリード」であることは間違いない。しかし政治家としての能力にそもそも問題がある鳩山に、いまさらアドバイザーを代えよと言っても無駄だ。
産経新聞によると、ワシントンでは米政府高官らが反米の前韓国大統領・盧武鉉(ノ・ムヒョン)との類似性を指摘し「戦略的な話は出来ない。情報は共有できない」と述べているという。確かに盧武鉉は在韓米軍撤退を主張して大統領になったが、「常時駐留なき日米安保」論の鳩山と似ている。この「日本の盧武鉉」が日米関係に決定的なダメージをもたらしかねない事態は、かねてから筆者が予測してきた流れだ。同じ「常時駐留なき日米安保」論の平野が「政権交代の意味が分かっていない」と開き直っているようだが、選挙で「常時駐留なき日米安保」論がテーマになったことは聞かない。平野こそ分かっていないのは、選挙の選択を外交・安保路線の選択と見ることの危険性だ。選挙の結果で長年積み上げた外交・安保路線まで変えられる、という考えほど思い上がりはない。この政権は政治の基礎が分かっていないのだ。
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