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2006-05-13 14:28
「ポスト小泉」をめぐる外交論争に望む
小沢一彦
桜美林大学・大学院教授
平成8年度に、慶応義塾大学教授の草野厚主査のもとで『ODAと総合安全保障』に関する研究プロジェクトに参加したことのある、松下政経塾3期生で、桜美林大学・大学院教授の小沢一彦です。僭越ながら、この9月に予定される「ポスト小泉」をめぐる、候補者間の政策論争の1つの争点にもなりそうな、「アジア外交への距離感と日本のアイデンティティー再確認問題」の考察の一助になればと思い、一言申し上げます。
(1)昨年の「郵政民営化の是非」同様、自民党・総裁選たるもの、「靖国参拝」とアジア外交だけが、シングル・イシュー的になるのは、あまりに稚拙で国益をあやうくする。あくまでもコンプリヘンシブな政策論争の、単なる1部分・1分野であるべき。
(2)現在、「日米同盟の再定義」や地球規模の米軍再編成と、中国の相対的優位性の向上など、アジアの構造力学の変化が重なり、「非対称潜在敵」の存在を含め、その複眼的・バランス外交感覚を問われていること。
(3)確かに双方の責任ではあるが、「靖国問題」ほか「歴史認識問題」だけで、本来、未来志向的であるべき、北東アジア全般の外交的連携、地域協調が阻害・遮断されていることは遺憾なこと。
(4)「靖国問題」は、政教分離や宗教法人と政治、「戦争犯罪」、米国主導の極東国際軍事裁判の正統性、日本人の「あの世」観、戦時中の旧日本軍によるアジア諸国の痛み・被害、日中のアジアでの主導権争い、などが複雑に絡み合い、単純に「右か左か」の問題ではないこと。
(5)グローバル化などの世界市場の動きやIT化の進行で、ボーダーレス化し国家主権の溶解する中、「われわれは一体何者か」という精神不安定もあり、歴史や伝統、日本文化に回帰する「国家主義の再強調」が内圧として増大していること。
(6)大ベストセラー『国家の品格』現象等があらわすように、様々な要因が絡んで、明らかにバブル期以降の20代・30代に、「ネオ右翼思想」が浸透しやすい社会経済状況があること(一種の「世代間闘争」)。
(7)「9・11テロ事件」以降、世界的な安全志向・治安維持強調傾向のなかで、IT技術の進化を伴なって「警察国家」化の風潮が強まっていること。
(8)グローバル化のなかでの経済格差への不満の増大と「アイデンティティー・クライシス」で、日本のみならず、中国側でも、韓国側でも、政府の正統性や政治的支持の動員のために、「安価」な資源投資ですむ「歴史問題」や「日本軍国主義復活」を利用せざるを得ないこと。
(9)日本においても、財政的破綻等で「ばら撒き政治」をもはや実行できない今の政治状況では、ある意味でお金のかからない、イデオロギー、外交問題で、政治主導権をめぐる争点をつくり出さざるを得ないこと。
(10)アジアの急激な経済発展・成長によってエネルギー需要が逼迫し、「協調的・共同資源開発」ではなく、石油、天然ガス、希少金属、淡水などをめぐる天然資源の獲得競争が、領土問題と絡んでこの地域における和解をさらに妨げていること。
などが、すべて複合的に絡まり重なって、今後のアジア外交、北東アジアの安定、日中韓の和解、アジア地域の共存共栄を妨げているのでしょう。当然、解決は容易なことではありませんが、靖国参拝・領土問題を含めた「歴史認識問題」を、あまりに政治問題化してしまうのは、双方にとって得策ではないと思います。次期・日本の国家指導者が誰であろうと、相手に対する一方的攻撃という感情論に走らずに、国益に加えて相互利益拡大のために、冷静に事実関係・問題を整理し、関係国が面子と利得を獲得できる解決策を慎重に模索すべきです。
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