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2009-09-02 14:47
拉致問題の早期解決を望む
入門 貴男
文化女子大学
北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)は国家樹立当初から武力行使を辞さぬ形で朝鮮半島を統一することを標榜してきた。この点においては韓国(大韓民国)も同じ態度(李承晩の北進統一論)であったが、1950年、北朝鮮が韓国に侵攻し朝鮮戦争に突入した。だが、北朝鮮側の事前の予期に反して国連軍が韓国防衛のために尽力し、中国人民解放軍の北朝鮮支援(介入)を招き、国土の荒廃と南北分断の固定化という惨憺たる結果に終わった。その後の北朝鮮は、朝鮮戦争からの復興事業を一段落させた後、1960年代に入ると、韓国に対する諜報活動を活発化させた。時には直接の破壊工作も行ったと言われている。その工作活動は少なくとも1980年代まで続けられていたことが確認されている。
現在当局によって把握されている被害状況からすると、日本人拉致が北朝鮮の国家機関によって企図されたのは、1970年代後半になってからではないかと推測される。それまで主として韓国国内で活動してきた北朝鮮のスパイ・工作員らが、この時期以降、韓国当局の手によって数多く摘発されるなど、韓国当局による北朝鮮工作員への警戒が非常に厳しくなったことにより、在日韓国・朝鮮人らを抱き込んで韓国に入国させる形での対韓国工作活動の遂行が困難になってきた。そのため、北朝鮮当局は日本人になりすまして工作員を韓国に入国させる手口が有効であると考え、韓国のみならず世界各国の出入国に便利な日本人のパスポートを奪取すると同時に、工作員を日本人にしたてるための教育係として利用するために、複数の日本人を拉致したとの指摘がある。また、北朝鮮工作員が日本侵入中に日本人と遭遇し目撃されたために拉致した事例や、工作員が確かに日本に潜入したことを北朝鮮特殊機関の上官に帰国後証明するために日本人を拉致した事例もあったのではないかとの指摘もある(例えば、1977年の横田めぐみの拉致事案の場合、その経緯からは「横田めぐみ」という特定の日本人を狙った形跡はなく、「工作員が日本に確かに潜入した証拠として通りかかった日本人少女を拉致した」という見方がされている)。なお、いわゆる「教育係」としての役割については、日本語と朝鮮語の両方に堪能な在日朝鮮人も数多く存在していることや、朝鮮総連(在日本朝鮮人総聯合会)は全国各地に事務所があり、各地域の在日朝鮮人が日本各地の風習や生活習慣に精通することもできるため、日本人を拉致して朝鮮語を一から教えることは、リスクの大きさ等を考えると不自然であるとの見方も存在する。
一方で、特定失踪者問題調査会の調査結果によると、拉致されたもしくは拉致された疑いが濃厚な者(俗に言う1000番台リスト)等の職業を詳細に調べた結果、「印刷工」「医師」「看護師」「機械技術者」といった職業に集中していることが判明している。このことから、日本人のパスポート獲得に加え、これらの技術・技能の獲得も拉致の主たる目的ではないかとの 指摘がある。これらの技術・技能は、覚せい剤の精製と偽札の製造が最大の産業であるとも言われる北朝鮮にとっては、喉から手が出るほど欲しいものであり、その技術・技能を持ち合わせている日本人を工作員や朝鮮総連の手で非合法な方法で招聘したというわけである(曽我ひとみの拉致については「(准)看護婦資格を持つ若い女性」として、曽我という特定の人を狙った形跡があるとされている)。また、これらの特殊技能を持った拉致被害者に日本人の配偶者を与え、家族を人質とすることにより、脱北させないようにするために日本人を拉致した例も多数あるのではないかとの指摘もある。北朝鮮には、1970年代にはよど号ハイジャック事件で北朝鮮に「亡命」した独身日本人男性が少なからずおり、「国家の賓客」として扱われていた。その配偶者を得るため、何人かの日本人女性を騙して北朝鮮に連れ込んだとケースもあったと言われており、1983年の有本恵子の拉致事案はこのケースであったという関係者の供述がある。
一部の拉致被害者は、特殊工作機関の常時監視のもと、上述の特殊技能を活かした任務や日本語文献の翻訳などに従事させられるなど、非常に不自由な生活を強いられていたとの指摘がある。餓死する子供が多発している北朝鮮の一般庶民の現状に比べると、拉致被害者たちは優遇された生活を送っていたと言われているが、実際は非常に厳しい生活状況であったことが曽我ひとみの夫のチャールズ・ジェンキンスが執筆した『告白』(角川書店、2005年)などから伺うことができる。最近の報道では、拉致が日朝間で政治問題化した1990年代後半以降は、一定地域内に各戸別に隔離された生活だったという。北朝鮮一般市民との接触は、継続的に特殊工作機関による厳重な監視下に置かれ、この時期に限らず常に遮断された状態であった。北朝鮮側は、2004年11月の日朝実務者協議で「死亡」とされた8人の死亡診断書等の資料が捏造であったことを認めた。また、横田めぐみのものとして提供された「遺骨」を鑑定した結果、日本政府は別人のものと判断し、未帰還の多くの拉致被害者は生存していると見ている。拉致被害者はこの他にも多数おり、特定失踪者問題調査会では数百人に及ぶ日本人が拉致されていることを示唆している。こうしたこれまでの経緯を踏まえ、拉致問題が早期に解決されることを望む。
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