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2009-08-26 16:44
経済格差拡大の進む中国
入門 貴男
文化女子大学
中国には、複雑に絡み合った多数の課題が存在する。1つに中国国内における貧富の格差拡大が挙げられる。この格差は、都市住民と農村住民の所得格差、地域の所得格差、業種の所得格差など様々な面における格差拡大によって引き起こされたものである。都市と農村での所得格差は、1978~85年には農村改革が重点であった事から、平均所得の比率は2.57:1から1.85:1に縮小した。しかし改革の重点が都市に移ると、この比率は年々拡大を始め、1994年には2.86:1にまで広がった。1995年から98年までは一旦減少するものの、それ以降は再び拡大を始め、2001年には改革開放以来最高の2.92:1となり、ジニ係数も一般的に警戒ラインとされる0.4を越えた。また、地域間においても格差は顕著に広がっている。東部と中部、東部と西部でのGNPの差は1990年時点ではそれぞれ898元と1079元であったのに対し、1995年には3539元と4203元に、2000年には5352元と6674元にまで拡大した。西部地域のGDPは東部地域のGDPのわずか40%の水準となっており、とりわけ貴州省と上海市との差は12倍を超えている。
今後は、西部大開発や東北新興などの対策に格差改善の期待が寄せられている。また、業種の所得格差も拡大した。不動産・金融・保険といった最高所得部類と、飲食サービス業・製造業・採掘業などの最低所得部類とを比較すると、その所得の比は1990年の1.72:1から1999年の2.63:1に拡大した。市場経済化が本格化した1993年以降、失業問題も深刻化し、重大な課題となっている。都市戸籍を持ち、かつ失業登録した者だけを集計した「都市部登録失業率」によれば、1993年の2.6%(420万人)から、2001年3.6%(681万人)、2002年4%(770万人)、2003年4.3%(800万人)へと不断に上昇している。これは、終身雇用を約束されていたにもかかわらず、国有企業改革や産業構造の調整・市場競争の激化による経営状況の悪化といった理由により、3年の猶予付き解雇を通告された、いわゆる一時帰休者を除いた数字であり、それらを加えると失業率は約8%にまで跳ね上がる。
この雇用状況は、第10次5ヵ年計画期にはますます悪化すると予測されている。2000年までの失業者・一時帰休者の総数1400万人に加えて、国有企業改革や産業構造調整による新たな失業者の増加が懸念される。さらに、都市部新規労働力と農村労働力の移転による毎年約1600万の新規労働力供給に対して、需要は毎年約800万人であり、労働力の供給が需要をはるかに上回る事が予測されている。また、電力において近年は毎年15%近く使用量が伸び続けており、電力不足が深刻化しつつある。エネルギー多消費産業の素材業種で投資・生産活動が拡大した事、経済発展に伴う家電製品普及率の上昇によるもので、今後もこの増加傾向は変わらないものと見られている。中国政府も三峡ダム建設などの対策は講じているものの、この電力不足が長く続くようであれば、成長の原動力となっている外国企業誘致にも支障をきたす事が懸念されている。
さらに、2005年7月より実施された人民元改革の影響も不透明である。元の切り上げによる元高により海外で中国製品の価格が上昇するため、海外から中国への進出企業は減少し、同時に輸出量の減少を招く。経済成長の原動力とも言える大量生産・大量輸出の陰りは、中国にとっては大打撃となる。また、輸出品の価格が上昇するのに対し、輸入品の価格は下がるので、元来非効率な生産方式を採っていた農業従事者などの間からは失業者が出てくる事が予想される。今後もアメリカなどから一層の切り上げ要求が予想される中で、中国政府の手腕が試される事になる。
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