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2009-08-11 09:32
ロシアの戦略の罠にはまっているチェチェン人たち
菊池由希子
国際政治専門家
7月15日のナターシャ・エステミーロヴァの誘拐殺害事件から1カ月もたたない8月10日の午後に、今度はNGO「スパショム・パカレニエ(Let's Save the Generation)」の代表ザレーマ・サドゥラーエヴァとその夫が誘拐されるという事件が、チェチェンの首都グロズヌイで起こった。現在、行方は分からないままである。
昨年1月に当時私がチェチェン人の男の子を日本で治療するために始めた「イムラン基金」から4000ドル以上の支援を「スパショム・パカレニエ」に行い、このNGOのリハビリ・センターに通う障害を持った若いスポーツ選手たちのトレーニング・ジムを購入したのだった。その後、ザレーマとは公私ともに親しくしていて、なにかと私は彼女の仕事を手伝っていた。
スパショム・パカレニエは、先のナターシャの所属していた「メモリアル」のような人権擁護活動をする反政府的な団体ではなく、医療支援を主に行う団体だった。地雷教育、外国やモスクワの病院への子どもたちの派遣などをしていた。そんな人道支援団体の代表をも誘拐するという現実が、チェチェンの情勢の悪化を物語っているようである。真実を言おうとする者、困っている人に手を差し伸べる者を容赦なく抹消しようとする。このような殺人や殺人未遂事件は、チェチェンやロシアの国外でも必要とあらば行われている。今年だけでも数人がヨーロッパやトルコ、中東などで犠牲となった。
チェチェンでは大きな戦闘はなくとも、毎日のように暗殺劇が繰り広げられている。チェチェン人戦士がチェチェン人の警官を殺し、警官は戦士の家族の家を焼き、ジャーナリストや活動家を誘拐、殺害する。まるで幕末のような現在のチェチェンだが、大きな違いは政治戦略を練ることのできる人材の不在と、チェチェン人を代表する合法的な政府が存在しないことにある。一方、ロシア政府には最初からチェチェン人同士が殺しあうような展開にするという戦略が存在していたことを、ザレーマら活動家たちが第二次チェチェン戦争が始まったときにクレムリンで忠告されたと、私は彼女の口から聞いている。チェチェン人たちは、ロシア政府の戦略の罠にはまってしまっているということに、気づく必要があるのではないだろうか。
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