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2009-05-23 14:57
新型インフルエンザへの対策を考える
中山文麿
LEC大学客員教授、政治経済社会研究所代表
新型インフレエンザ(A/H1N1)が成田空港の機内検疫で見つかって以来、神戸や大阪をはじめ各地で感染者が発生してきた。日本人は外国人と比較しても健康に対して人一倍強い関心を有する国民であり、マスクも違和感なく装着し、警戒してきた。それにも拘らずアジアでは飛びぬけて感染者の発生数が多い国になってしまった、のは誠に残念である。唯一安堵されたことは、このウィルスが強伝染性にも関わらず、毒性があまり強くなかったことである。また、H1N1と表記されているように、原型はソ連型ウィルスと同じであり、年配者は過去に類似のウィルスに感染しており、ひょっとしたら抗体を獲得している可能性があるかもしれない。
インフルエンザにはA型、B型、C型の3種類があるが、人間に悪さをするのは主にA型である。A型はさらにウィルスの表面についている突起状の2種類の糖タンパクによって細分される。糖タンパクのヘマグルチニン(H)は16種類あり、H1からH16まである。もう一つの糖タンパクのノイラミニダーゼ(N)はN1からN9まで9種類ある。それらが縦横の組み合わせで合計144種類の亜型が存在する。糖タンパクの機能を分かり易く紹介すれば、H1はウィルスが細胞の中に入る時に使う鍵であり、N は細胞から出る時に使う鍵と考えたらよい。現在、インフルエンザに最も有効な薬であるタミフルは、このN にとりついて、その機能を阻害する薬である。つまり、インフルエンザ・ウィルスが侵入した細胞の中から外に出られなくなって、増殖が止まり、病気に対する治療効果が発揮されるのである。
シベリアに棲むカモは、このA型インフルエンザの全ての型を宿主として持っている。しかし、カモは宿主であるがゆえに、病気になることはない。また、通常、種の壁があり、ヒトが鳥などと余程濃厚な接触によって大量のウィルスを体内に入れない限り、インフルエンザはうつらない。スペイン風邪も、香港風邪も、いずれも豚を介してカモのインフルエンザが人間に感染するようになったようである。豚はカモが持っているインフルエンザとヒトが感染するインフルエンザの両方のウィルスに感染する。そこで、豚の呼吸器の上皮細胞の中で、カモのインフルエンザと人間のインフルエンザが交じり合って、遺伝子が交換され、人間同士の間で感染するようになる鳥のインフルエンザが生まれてくるのである。インフルエンザの遺伝子は、デオキシリボ核酸(DNA)でなく、RNAである。RNA は、一般的にDNAよりも遥かに突然変異を起こしやすい核酸で、頻繁に新しいタイプのインフルエンザに変わっている。
今回の新型インフルエンザの毒性は、先に記したようにそれほど高くないのが、せめてもの救いであった。しかし、上に述べたように、インフルエンザは頻繁に突然変異を起こしているので、いつ強毒性に変異してもおかしくない。とりわけ、現在インドネシアなど東アジアで発生しているH5N1の鳥インフルエンザは、極めて毒性が強く、致死率が高い。この鳥インフルエンザは、すでに豚に感染していることが確認されている。この鳥インフルエンザがヒトに感染するインフルエンザに変異したり、新型インフルエンザが将来このH5N1のように強毒性の性質を獲得するのではないか、と懸念されている。仮に、この夏、新型インフルエンザの蔓延が収束しても、今年以降の冬において何シーズンか流行するのではないかと心配である。第一次大戦の頃に猛威を奮ったスペイン風邪の流行でも、第2波の流行でウィルスが強毒化したことがある。
世界保健機構(WHO)も現在のところ、弱毒性の観点からもパンデミックの警戒水準をフェーズ6に引き上げることには慎重のようである。しかしながら、上記のように今後真のパンデミックに移行していく可能性があることを忘れてはならない。厚生労働省は疫学的にもウィルスの変異に最大の注意を払うとともに、企業は今回の騒動を奇貨としてそれぞれの業種の特殊事情も勘案しながら、事業継続計画(BCP)を策定して、危機管理に対応してもらいたい。それと同時に、地方自治体も国との連携を密にするとともに、個人もこれからのパンデミックの発生に備えた対策を樹立しておきたいものである。
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