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2009-03-22 14:12
AIG問題に見る米国社会を考える
柳本 治夫
会社員
米国最大手の保険会社アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)が、今、米国世論の集中砲火を浴びている。同社が、昨今の金融危機のあおりを受けて経営難に陥り、公的資金の投入による救済を受けていたところ、今月、幹部社員400人に対し、総額2億1800万ドルに上るボーナスを支給していたからだ。一見、とんでもないことのようだが、実のところさほど驚くにあたらない。米国が契約社会であることが示されただけのことである。事実、AIG側は、ボーナスを支給した理由として、ボーナス支給は公的資金を受ける前から決まっていた点や、人材流出を防ぐ点を強調している。すなわちAIGは幹部社員との契約を履行しただけなのだ。
雇用契約には、あらゆる可能性が網羅されており、その内容に沿って、雇用者と被雇用者は双務的に契約を履行するわけである。おそらくAIGとの契約には「経営難に陥り公的資金を受けた場合、ボーナスは支給しない」とか「世論の風当たりが強い場合、ボーナスは減額される」などとは書かれていなかったのであろう。だからAIGの幹部社員は「なんの躊躇もなく」規定の金額を受け取ったはずである。うしろめたさなどあろうはずもない。契約が双務的である以上、もしAIGが規定の報酬を支払わなければ、訴訟が起こってもおかしくはないのだ。そして、信用に値しない雇用者からは、すぐさま離れることになる。老兵ならぬ、傭兵さるべし、である。
もっとも、政治的には大いに問題がある。事実、米下院は今回のボーナス支給額に対し、税率90%の特別付加税を課する法案を可決した。大統領の承認をもって、事実上、ボーナスは没収されることになる。異例の措置であるが、それが政治的判断である。とにかく、米国社会とはそういう社会だと考えておいたほうがよい。普段ファースト・ネームで呼び合っていようが、ひとたび利害が生じると、たちまち甲と乙に変身するのである。そのからくりが分かれば、米国人とは付き合いやすい。少なくとも、われわれはそういう国と同盟関係を結んでいることだけは、忘れてはならない。
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