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2009-01-21 08:01
オバマ政権の「対中傾斜」は避けられぬ
杉浦正章
政治評論家
オバマ政権がいよいよスタートを切った。チェンジを旗印にダイナミックな外交・内政を展開するものとみられる。日本にとってオバマ政権がどのような対日政策を取るかが最大の関心事だが、先の国務長官候補・ヒラリー・クリントン対日重視発言に気をよくしていると間違う。米国のアジア外交の本音は対中外交にあるのだろう。最重視のアフガニスタン情勢でも対日要求は大きなものとなりそうだ。こうしたオバマ戦略にどう対処すべきだが、一にかかって日本が存在感のある独自外交を展開してゆけるかどうかに尽きる。
外務省は、日米同盟を「アジアの平和と繁栄の礎石で、共通の価値と利益に基づく」と位置づけた上院外交委員会の承認公聴会でのクリントン発言を、もろ手を挙げて歓迎している。幹部の一人は「これで日米軽視、中国重視、頭越しの米朝交渉、経済摩擦、パイプの細さの懸念がすべてクリアされた」と述べたという。しかし、これははしゃぎすぎではないか。「日米関係がアジアの礎石」などという位置づけは、戦後一貫してとってきた米国の基本方針であり、首相訪米のたびに確認されている。「他の国への言及に比べて日本への言及が一段と多かった」というのも、まず同盟国から固めてという外交の基本戦略にのっとっただけのことであろう。クリントンおよび歴代民主党政権の本音は、アジア外交では対中関係にある。クリントンは大統領選挙キャンペーン中に外交専門誌『フォリーン・アフェアーズ』への寄稿で、米中関係を「今世紀で最も重要な2国間関係」と表明、対日関係にはほとんど言及していない。
日本からの懸念や反発の声が生じて、慌ててクリントンの外交顧問で元国務次官補・リチャード・ホルブルックが、「日本はアジア太平洋地域の平和と安定、繁栄を維持するためなくてはならない協力関係にある」とのクリントンの声明を発表した。こうした経緯から見ても、本音が分かる。上院でのクリントン発言は、このホルブルックや駐日大使に内定しているジョセフ・ナイの忠告を受けたものだろう。米国から極東を見た場合、すでに友好関係にある日本が霞み、対中関係をどうするかが、どうしても重要課題として浮上する。新政権としても取り組みがいのあるテーマであろう。オバマは短期的には日本との同盟関係をまず固め、中長期的にはかならずダイナミックな対中外交に乗り出すだろう。
しかし、新政権が日本重視か、中国傾斜かなどという議論を、日本国内でしていても無意味であろう。ナイが「米国と日本は台頭しつつある中国を国際社会に取り込むことに協力しあわなければならない」と述べている。まさに日本は米国の対中関係改善を視野に入れて、むしろ関係改善を側面援助するくらいの姿勢でよい。対北朝鮮問題でのクリントンの「核計画や拡散活動のすべてを完全かつ検証可能な形で放棄するべきだ。そうしないなら、厳しい制裁が科されなければならない」とする厳しい姿勢は当然である。ブッシュ後期の米国務省は、北朝鮮問題で、北のしたたかさを読み間違えるという誤算をした。6者協議は非核化に向けた検証措置をめぐる文書も作れずに終わった。クリントン発言の背景には、ライス国務長官、ヒル国務次官補らによる融和政策が甘かった、との反省がある。日本は6か国協議においても日米韓の連携を強化し、むしろ主導するくらいの意識があっても良い。
首相・麻生太郎は20日出来るだけ早期の訪米の意向を明らかにしたが、日米首脳会談でオバマとの個人的関係の構築に努めるべきだ。その際は、オバマの最重要外交課題であるアフガニスタン問題で積極的に提言し、日本もテロとの戦いに出来る限りの支援を約束する、くらいの立場を表明するくらいであって良い。さらに、ナイと前米国国務副長官のリチャード・アーミテージの連名による「第2次アーミテージ・レポート」の中では、日米同盟を英米同盟のような緊密な関係へと変化させ、東アジア地域の中で台頭する中国を、穏健な形で秩序の中に取り込むことなどが提言されているが、これも考慮に値する問題ではないか。同盟関係の成熟度を高めることが、北東アジアの安定に寄与するのだ。
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