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2006-04-15 07:44

「核拡散は避けられぬ趨勢」に異議あり

吉田 康彦  大阪経済法科大学教授
 核拡散がもはや避けられぬ趨勢であり、原子力平和利用における米印接近が9・11以降の米国の核論理の転換を意味するという伊藤憲一氏の指摘は正しい。日本人は「べき」思考が強く、観念論を振り回す傾向があるので、その前に事実認識としての「である」思考がなければならない、とする氏の主張もうなずける。

 しかし、「核拡散は避けられぬ趨勢であり、米国の核の論理は様変わりした」という「である」認識と、NPT提唱国の米国がNPT非加盟国のインドと原子力平和利用で協力するという事実とを同一視してはならない。それをそのまま是認すると、ジャングルの掟に従って米国という巨大なオオカミの一挙手一投足に追随することになりかねない。

 私は米印原子力協力に賛成だが、それはインドが原子力平和利用の先進国で、同時にネルー首相が核廃絶の熱心な提唱者だったことを知るからだ。CTBT(包括的核実験禁止条約)の原提案国もインドだった。インドがNPT非加盟なのは、米ソ英仏中5カ国のみの核保有を未来永劫に容認している不平等条約だからだ。

 米議会はブッシュ大統領の「単独行動主義」批判を強めており、特に核不拡散論者が多い。対印原子力協力推進のための国内法改正の成否も危うい状況にある。「核拡散が避けられぬ趨勢」だとしても、「核不拡散のための最大限の努力が不可欠」と主張する議員が民主党のみならず、共和党にもかなりいる。彼らは「べき」思考が強い。

 要するに、「である」思考に甘んじていてはならない。NPTの空洞化・形骸化が唱えられて久しいが、私たちはNPTに代わる新しい核管理法規を模索し、普遍的な国際法として確立しなければならない。「べき」思考なき「である」思考は理性の退廃である。
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