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(連載2)「劉暁波氏の死去」にみる西側と中国の変化 ← (連載1)「劉暁波氏の死去」にみる西側と中国の変化  ツリー表示
投稿者:六辻 彰二 (神奈川県・男性・横浜市立大学講師・40-49歳) [投稿履歴]
投稿日時:2017-07-25 10:05 [修正][削除]
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No.3925
 ところが、今回の劉暁波氏の死去では、状況が異なります。西側では、メディアと国際人権団体が「自由と民主主義の観点」から中国当局に批判的なメッセージを発しており、欧米諸国政府からもコメントがないわけではありません。例えば、英国のジョンソン外相は「劉氏を海外で治療を受けさせるべきだった」という声明を発表しています。しかし、それ以上の踏み込んだ中国批判を行う政府は皆無で、7月14日にパリで行われた仏米首脳会談でも、マクロン、トランプ両氏ともに劉氏を讃えながらも、中国政府への直接的な批判は出ていません。そこには、大きく二つの要因があげられると思います。第一に、中国の影響力が28年前とは比べ物にならなく大きくなっていることです。1989年当時、GDPで中国は世界第11位でした。改革・開放のさなか、急激に経済成長しつつあったとはいえ、いまだ先進国から大規模に援助を受ける身でした。これに対して、GDP世界第2位となった現代の中国は、その資金力によって先進国にも大きな影響力を持つに至っています。経済制裁は「両刃の剣」であり、制裁を行う側にも大きなダメージをともないます。とりわけ、ヨーロッパ諸国がそうですが、米国にとっても、中国との貿易問題は重要です。北朝鮮への制裁をめぐり、中国がキープレイヤーとなる状況は、これに拍車をかけています。劉暁波氏の死に関する西側先進国の対応は、よほど自らにとっての死活的な利益が関わらない限り、天安門事件当時のように中国に制裁を行うことが、もはやほとんどあり得ないことを示したといえます。

 第二に、西側の自由や民主主義そのものが、かつてほど「ブランド力」を持ち得なくなっていることです。何かの考え方を強制する場合、相手によって態度を変えては、説得力は生まれません。もともと、西側先進国の民主化要求には、専制君主国家サウジアラビアなどの外交関係が良好な国は大目にみるといった二重基準が鮮明で、それが「自由と民主主義」に対する開発途上国の信頼を低下させてきました。これに加えて、相手に求める考え方を、自分自身が文句なく実践できなければ、やはり説得力は生まれません。ところが、近年の先進国内部では「自由と民主主義の劣化」が目立ちます。トランプ現象や英国のEU離脱に象徴される、西側先進国におけるポピュリズムの蔓延は、情報化が進む現在、開発途上国を含む世界各国に広く伝えられており、これも「自由と民主主義」のブランド力を引き下げています。2017年6月1日にワシントンポスト紙に掲載されたインタビューで、あるロシアの高官が「ロシアゲート」事件をめぐる「ワシントンの狂騒」を嗤い、「私は君らの大統領が我が国にくることを決して好まないが、君らのシステムがもっとましな代表を選べないのであれば、是非もない」と発言したことは、その象徴です。つまり、現在の先進国が「自由と民主主義」を唱えても、そこにかつてほどの影響力を期待できないばかりか、逆に恥をかくことにもなりかねないのです。

 これに対して、中国に目を向けると、共産党体制を脅かす者を容赦なく取り締まり、当局に都合の悪い情報を遮断しようとする点では何も変化がない一方で、1989年当時と比較した多くの変化をみてとれます。今回の場合、それは主に「国際世論」への対策にうかがえます。例えば、7月11日、中国政府につながるサイトで、病院で劉暁波氏の治療にあたる外国人医師の様子がリークされました。そのなかで、外国人医師らは劉氏に精一杯の治療をしている旨の発言をしています。天安門事件の頃、中国政府は事件の全貌を海外に公開することさえほとんどなく、西側メディアのカメラが捉えた出来事そのものを、まるでなかったかのように扱おうとしました。それと比べると、今回のリークは例え「グロテスクなプロパガンダ」だったとしても、少なくとも「政治犯をも人道的に取り扱っている」というアリバイ工作にはなりました。つまり、天安門事件の頃と異なり、劉氏の場合、中国当局は「都合の悪い情報」をひたすら隠そうとするのではなく、それを「宣伝材料」に流用する手法を用いたといえます。ただし、「政府が白というものは全て白」といった中国式プロパガンダが、かえって西側諸国の不信感を招くこと自体は避けられません。

 次に、西側以外の国へのアプローチです。中国政府からみると、天安門事件の頃、中国の国際的な情報発信力が低かったことが、「西側メディアによる中国イメージの悪化」を許したと映ります。そのため、中国は2000年代半ばから、開発途上国を中心に、新華社通信や中国中央電視台(CCTV)の進出を促し、中国メディアからの情報提供を進めてきました。開発途上国では、従来ロイターやAFPなど西側の通信社から記事を購入していたメディア企業が、料金の安さもあって新華社に乗り換えることは珍しくありません。つまり、中国の働きかけにより、中国に都合の悪い情報は、以前ほど国際的に伝わりにくくなっているといえます。こうしてみたとき、天安門事件の頃と現代を比べると、中国と西側先進国の基本的な立場に大きな変化はなくとも、状況によって行動パターンに変化が生まれていることが分かります。中国をはじめとする新興国の台頭に直面するなか、それらに影響力を行使しようとするなら、西側先進国は軍事力や経済力だけでなく、「言説の力」の再構築に迫られているといえるでしょう。(おわり)

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