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「トランプ政局」はニクソン政局と酷似   
投稿者:杉浦 正章 (神奈川県・男性・政治評論家・70-79歳) [投稿履歴]
投稿日時:2017-02-01 06:28 [修正][削除]
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No.3792
 半世紀前のウオーターゲート事件によるニクソン米大統領辞任をホワイトハウス記者団の端くれとして実際に取材した経験から言わせてもらうと、「早くもトランプ政局か」ということになる。さらに加えれば、ニクソン同様にトランプは、死んでも国葬にされないのではないかとすら思いたくなる。移民排除の大統領令に端を発した政局は役者には事欠かない。ニクソンを辞任に追い込んだなつかしい「院内総務」という政党トップの名称も使われ始めた。民主党院内総務チャック・シューマーが活躍し始めた。ニクソンは副大統領にやはり共和党下院院内総務のジェラルド・R・フォードを任命したが、側近は「彼が次期大統領になると思うと追及の手も緩むだろう」とうそぶいたものだ。ところがニクソン政局は「後任は誰でもいい」というところまでに至り、ニクソン辞任即フォード就任となったのだ。トランプの場合ニクソンと根本的に異なるのは、怨嗟の声が米国内だけにとどまらず、西欧、中東、アジアにまで広がり、内外呼応した政局に発展しつつあることだ。さらに異なるのは、政権発足早々という異例の政局であることだ。この流れは増幅しこそすれ、とどまることはないだろう。

 世界中に高まる批判、そして米国内では違憲訴訟が各地で相次ぐ。司法省ではトップから批判の声が上がり、トランプは同省長官代行イェイツを音より早く「You\'re fired」とクビにした。イェイツは「大統領令が合法かどうかは確信が持てない」として、省内に「大統領の弁護をするな」と通知したのだ。さらに火の手は国務省にも及ぶ。省内で大統領令に反対する職員が数百人の署名を集め、反対の声明を打ち出そうとしているのだ。政権内部からの造反は、ウオーターゲート事件と相似形をなす。政権中枢から「ディープスロート」として、ワシントン・ポスト紙ににリークし続け、ニクソンを追い詰めた例と似ているのだ。米国の民主主義は衰えていない。ワシントン州では司法長官・ファーガソンが、違憲訴訟を提起した。同州知事ジェイ・インスリーは「移民の人々が苦しんでいる惨状をトランプ氏が『ナイスで、ビューティフル』などというのは許せない」と訴えた。異例なことに、前大統領オバマまでが我慢しきれないとばかりに、「大統領令は基本的には賛成しない」と、批判の火ぶたを切った。

 前述の院内総務・ チャック・シューマーは上下両院の議員100人余りとともに並んで演説し、「この大統領令でアメリカはより危なくなり、アメリカらしさも失われる」と厳しく非難したうえで、「すべての力を使って、大統領令を無効にする」と述べ、トランプ政権との対決姿勢を鮮明に打ち出した。シューマーは目に涙を浮かべて演説したが、トランプの反応はゲスの極みのようであった。「誰かが演技指導したのじゃないか。シューマーを知っているが、泣き虫ではない。あれは嘘泣きだ」と毒づいたのだ。他人の愛国の涙を臆面もなく「嘘泣き」と批判する神経は異常だ。このトランプの政治姿勢はきわめて興味深い。なぜなら、その反応は確実に国民やマスコミを挑発して「倍返し」に遭うからだ。普通の正常な政治家はこうした場合は、挑発に出れば批判を増幅してしまうから損だと判断する能力があるが、トランプは逆だ。その判断能力がなく、政治家にとって最大の欠陥となる“感情丸出し政治”を予感させる。

移民排除の大統領令は、いみじくも首席戦略官で大統領最側近のスティーブン・バノンの存在を改めて浮き上がらせた。トランプは、まるでヒトラーの最側近ハインリヒ・ヒムラーのごときバノンによって、まさに自分こそ“演技指導”を受けているようだ。バノンは「メディアは負けたのであり、屈辱を味わい、しばらく黙っていろ」と反メディア色を鮮明にしている。バノンは、人種差別や反ユダヤ主義の主張が飛び交うネット上の運動であるオルタナ右翼(もうひとつの右翼)「ブライトバート・ニュース」の前会長だ。オルタナ右翼とは右翼思想の一種で、トランプを支持し、白人ナショナリズム、白人至上主義、反ユダヤ主義、反フェミニズム、右翼ポピュリズム、排外主義などを中核的な思想としている。移民排除の大統領令はバノンの独走という見方が強い。本来は国土安全保障長官ジョン・ケリーが担当する問題だが、発表当日はマイアミ主張中で、知らされていなかった。次期国務長官ティラーソンや国防長官ジェームズ・マティスも発表まで知らされていなかったという。いわばクーデター的に大統領令を打ち出したのだ。君側の奸のごとくバノンがホワイトハウスで頭角を現し、米国の政治を牛耳ろうとしているのだ。

 ウオール・ストリート・ジャーナル紙も社説でバノンを取り上げ「米国の民主主義にとって最悪なのは、白人寄りの不満政治を正当化することだろう。トランプ氏が約束したように、大統領は全国民を代表するべきなのだ。バノン氏が示す政治的傾向を注意深く見守る価値はある。こうした勢力を好きなようにさせておけば、トランプ政権は破滅に向かうだろう」と警鐘を鳴らしている。このバノンとメディアの戦いは、最終的にはメディアが勝つだろう。邪悪対正義の戦いであるからだ。今後の焦点は、議会がマスコミと並んでニクソンを辞任に追い込んだように、議会の動きが注目される。議会共和党も、2年後の中間選挙を考えたら、トランプでは勝てないことを早々に悟るだろう。まず大統領令を阻止するには、(1)大統領令に反対する法律を成立させる、」(2)関連予算を認めない、(3)まだ4人しか承認していない閣僚の承認手続きを先延ばしにする、などの対抗策が考えられる。最終的には弾劾に至るかもしれない。ニクソンは弾劾が成立すると分かって、事前に辞任を表明した。また、最高裁が違憲の判決を下すかどうかも注目点だ。ニクソンはウオーターゲート事件が発覚して辞任に至るまで2年間かかった。ホワイトハウス記者団の追い込みが本格化したのは、1974年の1月頃からだから、それから8月の辞任まで半年以上かかった。トランプも容易には辞めない。しかしニクソンの場合、突っ張りに突っ張ったが、辞めるときは、押している記者団がつんのめるほどもろい崩れ方であった。どうも似たようなことになるような気がする。米国のマスコミの執拗さは尋常ではない。

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