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2026-01-19 08:50

独立250周年へレガシー狙いか?

鍋嶋 敬三 評論家
 ドナルド・トランプ米大統領は1月20日、第2次政権発足1年を迎える。この1年、世界を相手に貿易赤字の是正を迫り高率関税を課して世界経済を混乱に陥れた。国際慣習を無視したトランプ流の「ディール(取引)」旋風によって世界は不安定性、不確実性を一層強めるだろう。トランプ氏は就任演説で「米国の黄金時代」「米国第一主義」を掲げ、この日を「米国の解放記念日」と宣言した。2026年明け早々、1月3日に世界を驚かせたのはベネズエラの政権転覆を狙った「大統領拘束」であった。一ヶ月前に発表した「国家安全保障戦略」(NSS2025)で南北アメリカの西半球を「核心的な国益の地域」と規定して最高の優先順位に引き上げた。100年前の「モンロー・ドクトリン(主義)」を持ち出し自らの名前を冠して「ドンロー主義」と称し、米国の優越を確実にする主張を実行したのである。1月7日には国連貿易開発会議(UNCTAD)など66国際機関からの脱退を指示、多国間協調主義に背を向け、孤立主義への回帰が鮮明になった。

 トランプ氏は大統領として7月4日にアメリカ独立250周年の記念日を迎える。1976年の200周年記念日に米国民が高揚した祝賀気分を筆者もワシントンで共にかみしめた。1974年7月にウォーターゲート事件で下院司法委員会がニクソン大統領の弾劾訴追を可決、8月に大統領が辞任。75年4月ベトナム戦争で南ベトナムが降伏、米軍全面撤退に追い込まれた暗い時代を忘れたいという気分が独立記念日の祝典を盛り上げた。日本では76年2月に発覚したロッキード事件の嵐が吹き荒れ田中角栄元首相が7月に逮捕、5億円の受託収賄罪で起訴された。72年の首脳会談でニクソン大統領がロッキード社のトライスター機導入を希望、共同声明で「貿易不均衡是正」がうたわれ、事件の誘因となったとされる。

 「米国第一」の名の下で明らかになったトランプ交渉術の狙いは高率関税の脅しによって取引を迫り、資源の開発権利や相手国への米産品輸出拡大など経済的利益の最大化である。ベネズエラの事件は目的が世界最大の埋蔵量とされる石油利権の獲得ともみられている。1月9日にトランプ大統領は同盟国デンマークの自治領である北極圏のグリーンランド所有権を要求した。世界最大の島(面積は日本の6倍)で米ソ冷戦時代から米国のミサイル防衛の前哨基地として重要な役割を果たし、現在も米軍100人以上が恒久的に駐留している。トランプ氏はロシアと中国がこの島を取るのを防ぐためと発言している(英BBC放送)が、所有権の要求は中露などの北極圏開発ににらみを効かせ、レアアース(希土類)や石油などの資源開発が狙いではないか。

 欧州の反発は極めて強い。北大西洋条約機構(NATO)加盟の複数の国が軍隊を派遣、デンマークを支持する姿勢を強めた。トランプ大統領は17日、デンマークや英、仏、独、スウェーデンなど有力8カ国からの輸入品に対して2月1日から10%、6月1日から25%の追加関税を課すと発表、欧州は主権侵害と強く反発して米欧同盟に大きな亀裂が入った。ウクライナ和平交渉に向けて米欧が結束を固めるべき時にNATOの弱体化を喜ぶのはロシアや中国だろう。グリーンランド所有が実現すればレガシー(遺産)として歴史に名を残すという欲望が強く働いているのではないか?米国は1803年にフランスのナポレオンから南部ルイジアナを、1867年にはロシア帝国からアラスカを買収して領土を大きく拡張した歴史がある。ロンドンの国際戦略研究所(IISS)が2018年の年次報告書でトランプ(第1次)政権下の米国をロシア、中国と並ぶ「秩序の挑戦者」と名指しし、「米国は敵国よりもっと大きな打撃を国際秩序に与えている」と断定していた。かつての米国は今や輝きを失い最も近い同盟国からも嫌われる存在になった。建国250年を迎える米大統領の治績を後世の歴史家はどのような評価を下すのだろうか?
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