彼のポピュリスト的な思想と行動を説明するキーワードはオランダ人政治学者、カス・ミュデ米ジョージア大学准教授によって「中心の薄弱なイデオロギー」と呼ばれている。この用語との遭遇は、“LSE British Politics and Policy Blog” でポピュリズムとトランプ関税に関する4月2日付け論考を読んだ時だった。その論考で「中心の薄弱なイデオロギー」という概念は、確固たる価値観や政策を欠いた反エリート主義的なイデオロギーとして説明されている。ミュデ氏の学説は日本の学界からも大いに注目されている。北海学園大学の高橋義彦教授は、ポピュリズムとは社会は最終的に「汚れなき人民」と「腐敗したエリート」という均質かつ敵対的な二つの集団に分かれると捉える「中心の薄弱なイデオロギー」と定義され、この世界観では政治は人民の「一般意志」の表明であるべきだと主張されると論評している。興味深いことに、高橋教授は、ポピュリストは社会の矛盾について正しい問題提起をしながら、それに対して間違った回答で応じてしまうと述べている。本稿ではトランプ氏の「中心の薄弱なイデオロギー」について、貿易、反ユダヤ主義、イランという3つの問題に関して述べたい。
「中心の薄弱なイデオロギー」は論理的には矛盾しているかもしれないが、感情的には非常に一貫している。これはトランプ政権の予測不能性を解明するキーワードである。本稿の主題ともなっている用語の概念は、バートランド・ラッセルがルース・ナンダ・アンシェン編書“Freedom: Its Meaning”(1940年)への寄稿で、「(ファシスト運動における)第一歩は、一方では感情的な興奮によって、他方ではテロリズムによって、愚か者を魅了し、賢明な者を黙らせることである」と記したように、非常に古くて新しいものである。我々が理解しているように、ポピュリズムとファシズムは深く絡み合っている。