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2014-09-14 22:23
朝日新聞とマスコミの問題
河東 哲夫
元外交官
朝日新聞の誤報と謝罪で大騒ぎになっている。しかし、誤報はマスコミにはつきもの。それが朝日だからニュースになる。朝日のこれまでの影響力の裏返しのようなもので、朝日のことを書きたてて他のマスコミは部数を伸ばし、視聴率を上げている。若者の関心が下がって、部数を下げ、視聴率を下げてきた既存マスコミは、共食いを始めた感がある。私は朝日の味方ではない。特に慰安婦問題についての「吉田証言」の連続掲載はひどい。しかし、福島原発についての「慰安婦問題についての吉田」とは全く別の「吉田」調書の報道ぶりは、マスコミによく見られる書き方だ。
福島第一原発の吉田所長が「現場を死守せよ」との命令を出していたのに違反して、職員は第二原発に大量避難したというのが、朝日の記事の趣旨なのだが、吉田所長自身はその調書の中で「原発保守に直接関係のない事務系職員はとりあえず放射能の危険の薄い場所に移動するべきだ」、そして「移動するとしたらそれは福島第二原発かな」という話を当時していた、と言っている。「全員現場に残れ」というような命令は出していないのだ。従って朝日は、事実を捻じ曲げて、「吉田所長を英雄扱いする」一方で、「大量の職員を卑劣漢扱いした」記事を出したことになる。
しかしこの種の歪曲は、朝日に限らず、世界のマスコミの常套手段ではないのか。ストーリーを作り上げ、英雄、悪漢を作り上げ、その方向に事実を合わせる。事実と微妙にずれている認識をいくつかつなぎ合わせると、たいへんなストーリーができあがる。吉田所長も、当時の言葉をいろいろ重ね合せると「死守せよ」という命令を出していたと言われてもあえて反論できないような感じだから、歪曲に反論できなくなる、と言うか面倒くさくなる。
というわけで今回、僕は課題は4つあると思う。(1)一つは、朝日新聞内部の体質改造だ。既にいくつか人事異動が行われている。(2)次に、マスコミ同士の共食いを控えることだ。朝日の誤報を他山の石として、「新聞倫理綱領」を活用することだ。(3)第三に、朝日新聞を袋叩きにするのもいいが、それによって日本社会の風潮が一気に国家主義的方向にふれないよう、気を付けることだ。(4)最後に、朝日、朝日と大騒ぎしているが、これまでの大マスコミはどれも部数や視聴率が減っている。これからマスコミはどうするのか。若者はスマホでニュースを全部わかった気になっているが、ニュースの背景、見通しなどをどうやって彼らに伝えていくか、この問題は大きいと思う。
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