国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2021-06-15 13:30

(連載1)第336回国際政経懇話会に参加して

河村 洋 外交評論家
 去る5月31日に慶応広瀬陽子教授を迎えて開催された国際政経懇話会「ハイブリッド戦争:ロシア外交の最前線を読み解く」に於いて、参加者の中から「ロシア以上に中国のサイバー戦能力の方が大きな脅威ではないか」という質問がなされました。懇話会の性質から匿名質問の内容には深入りいたしませんが、それは拙稿「バイデン外交に見られるバランス感覚」(e-論壇「議論百出」4月2日付)および「何がバイデン外交のレッドラインとなるのか」(e-論壇「百花斉放」5月13日付)で2度続けて言及した2020年アメリカ大統領選挙に関するNIC(国家情報会議)報告書の内容とも関連するものでした。

 件のNIC報告書では、ロシアやイランなどと違い中国は選挙介入を控えたということです。それは中国もイランと同様にバイデン陣営への支援を検討しながら、選挙後の対米関係にも配慮したということが最も大きな理由となっています。その一方で見逃してはならぬことは、中国にとってはトランプ氏再選でもそれほど不都合ではなかったということです。すなわち同盟軽視でアメリカ民主主義の信頼性を損ねてくれるトランプ政権であれば、むしろ中国にとって好都合な側面もあったということです。
 
 このようにバイデン氏でもトランプ氏でも対応できると考えた中国の政治的立場は、イランと比べて余裕があります。中国による選挙介入およびハイブリッド戦争を考えるうえで、これは留意すべき点と思われます。ちなみに日本と台湾ではバイデン政権になるとトランプ政権よりも中国に宥和的になるのではとの懸念の声もありましたが、習近平政権は彼らよりはるかにしたたかだったことを銘記すべきでしょう。
 
 そしてロシアがアメリカ大統領選挙で繰り返し行なった選挙介入からも伺えるように、ハイブリッド戦争にはサイバー技術以外の手段も用いられます。そこで中露両国が非サイバー的な人的ネットワークを活用したハイブリッド戦争の共通点と疑問点について述べたいと思います。近隣諸国ないしそれに準ずる地域への勢力浸透では、両国とも似た方法をとっています。ロシアが旧ソ連諸国でロシア系住民を代理勢力とする一方で、中国は新疆やチベットなどへの漢族入植、そして自国近海に漁船団を派遣しています。それに対してロシアが欧米に極右ポピュリズム支援の選挙介入を行ない続けている一方で、中国にはそうした動きが目立ちません。となると先進民主主義諸国へのロシアの政治的介入能力が目立つ一方で、こちらでは中国は出遅れているのだろうかという疑問点が浮かびました。(つづく)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム