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2012-07-18 09:45

(連載)日本再生戦略をどう生かすか(2)

角田 勝彦  団体役員
 「日本再生戦略」報告書原案は本体だけで119ページと大部である。環境や医療、金融、中小企業、アジア太平洋貿易、観光など11の戦略分野で450項目に及ぶ施策を挙げ、新しい市場や雇用の創出を目指す数値目標を多く盛り込み、達成までの工程表も明示している。成長が見込める環境関連分野と医療・介護分野で2020年までに計100兆円の市場を創出し、計420万人を超える新たな雇用を生み出すことが柱である。2020年までの経済成長率は平均で名目3%、実質2%の実現を目指しデフレ脱却につなげるとしている。

 本戦略は、菅政権が2010年6月に「強い経済、強い財政、強い社会保障」を目指して決めた新成長戦略(環境・エネルギーや医療・介護、観光、アジアへの社会資本展開など7つの戦略分野を推進し、20年度までに約500万人の雇用をつくり出す計画)の東日本大震災・福島第1原発事故を経た修正版といえる。「新成長戦略」では約400項目のうち「一定の成果があった」のは一割に満たなかったというが、本戦略では、実効性を高めるため今後3年間は各分野に予算を集中配分し、規制緩和による民間企業などの投資も促すとともに、毎年5月をめどに各政策の進捗状況を点検して国民に公開し、成果が上がらない施策は予算を縮小、廃止する見直し規定も設けられている。

 しかし、すでに本戦略も官僚の総花的、かつ我田引水の作文中心で成果はあまり望めないとの批判も出ている。多くの作文的部分が指摘されているが,例えば環太平洋連携協定(TPP)交渉への参加と農業ほか国内産業育成との関連を見てみたい。前者については各国との間で経済連携協定(EPA)を締結し、貿易額に占める締結国関係の比率を現在の2割弱から8割に高めるとして、環太平洋連携協定(TPP)交渉の加速をうたっている。農業については、食糧自給率をカロリーベースで50%にするとうたっている。各々の目標達成の困難さのみならず、複数目標の間の矛盾がないよう調整も困難であろう。

 政局が近いといわれるなか、不支持率が60%を超えた野田内閣が本戦略について多くの決定を断行することは無理である。TPPのように国内の意思統一が未熟のまま戦略に掲げても実現は困難である。与党内も固まっていない。消費税引き上げは民主党を分裂させた。国民は不統一による不決定にうんざりしている。7月上旬の朝日新聞による全国世論調査で次の衆院選後の政権はどのような形がよいか聞いたところ、「民主と自民の連立政権」が36%で最も多かった。せっかくこれだけの原案が作成されたのである。国民の知的財産になり得ると言えよう。野田内閣限定の資産とするのはもったいない。「民主と自民の連立政権」は無理でも、消費税と同様、民主・自民・公明の時間をかけての協議により、合意できるものを選んで今後の政策の共通土台とすることが期待される。(おわり)
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