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2008-04-09 00:00
“チベット”で首相の顔が消えている
杉浦正章
政治評論家
中国チベット自治区の騒乱をめぐり、首相福田康夫の顔が消えてしまっている。わざと消しているという方が正しいのかもしれない。国際世論は人権問題無視の中国政府に一段と厳しさを増し、米大統領選挙でも全ての候補から厳しい中国批判が台頭している。外務省は中国側が「内政問題」と主張している以上、手を出せないとしているが、首相の姿勢はむしろ、5月の国家主席・胡錦濤(フー・チン・タオ)の来日を控え、四面楚歌の中国政府に「恩を売る」かのように見える。これでは国際世論ばかりか、国内世論からも評価は得られない。チベット問題に関する首相の発言を見ると 、「双方が受け入れられる形で、関係者の対話が行われることを歓迎する」と当たり障りのないことを言っていたかと思うと、「人権にかかわるようなことがあれば、心配、懸念を表明せざるを得ない。」と、例によって“他人事”風に批判は最小限にとどめる。総じて「関係者が冷静な対応をしてくれることを望んでいる」と極めて慎重な姿勢だ。
これをギョーザ事件に関する首相の「中国は極めてよくやっている」発言と合わせると、とにかくひたすら胡錦涛来日を成功させたいと念じている姿が浮き彫りになる。しかし、来日成功を一義的に考えるべきなのは、中国政府なのではないか。おまけに、この政局多端なおりに、自公両党幹事長伊吹文明、北側一雄両は15、16の両日、中国を訪問し、胡錦濤国家主席らと会談するという。「胡主席の訪日が成功するよう事前の準備をしたい」(北側)ということだが、これでは中国政府に「日本甘し」のメッセージを送ることになるだけではないか。確かに善隣友好は重要だし、ロシア、朝鮮半島など物事は総合的に見る必要がある。しかし人権問題という見地からだけでなく、外交駆け引きの側面から見ても、「お人好し外交」の側面しか浮かび上がってこない。「人が良い」というのは永田町では「無能」の代名詞だが、国際外交においてもそうだ。フランスのサルコジ大統領は、中国が北京・上海高速鉄道にフランスの高速鉄道TGVのシステムを採用してくれたから、中国批判に手心を加えるだろうか。
米国でもヒラリー・クリントン上院議員は25日、ブッシュ政権に対し「もっと強い姿勢」で中国に米政府の見解を伝えるよう要求した。民主党のオバマ上院議員、共和党のマケイン上院議員は、チベット情勢をめぐり、中国政府を批判する声明を相次ぎ発表している。ギョウザ事件の理不尽な対応、日本の悲願である国連安保理常任理事国入り反対、首相の靖国神社参拝に対する厳しい批判、東シナ海のガス田開発などでの強硬姿勢など、これまでの日中関係は総じて中国側のペースであった。唯一、日本側の強硬姿勢が奏功したのは、参拝の是非はともかく小泉純一郎の靖国参拝だ。逆説的になるが、小泉が強硬姿勢を貫いた結果、今の友好関係に導かれたのは事実だ。対中外交は時には強く出る必要があることを物語っている。
折から、インド亡命中のチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世は9日、日本経由で訪米の途に就く。10日の記者会見だけしか予定されていないようだが、日本政府要人は接触しないのだろうか。仏大統領だったら、飛びつくように会談する。政府は、中国にダライ・ラマとの対話再会を求めている以上、両者の対話実現に向けて接触する絶好の機会ではないのか。それとも、接触しないのは中国への気遣いからか。例によって外務省職員が、記者から後で記者会見の内容を取材するわけか。
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