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2008-02-14 00:00
オバマの光と影
梨絵サンストロム
ジャーナリスト
日ごとにテレビのスクリーンに映し出されるオバマの聴衆は催眠状態で恍惚としている。演説の一区切りごとに歓声が上がる。この興奮状態はどこかで見たと気付き記憶を辿ると、二十数年前マディソン・スクエア・ガーデンで行われた統一教会の集団結婚式の会場で、文鮮明が七千人の信者を前に演説したときの信者たちの恍惚とした顔を思い出した。文鮮明がセンテンスを区切るごとに聴衆は歓声を上げ興奮が渦を巻いた。私はその会場にいて全てを目撃したが、あのときの信者の状態はオバマの聴衆と酷似している。
オバマほど演説の上手な政治家はめったにいない。意図的に巧みな演説で知られるビル・クリントンとはまた違った巧さである。聴いていると確かに素晴らしいことを言い、そのスピーチには天才的なタイミングのよさがある。彼のスローガンは「チェンジ」である。政治を変える、アメリカを変える、世界を変える、それをするのは自分しかいない、大統領になった暁にはあれもするこれもする、そしてアメリカ人は黒も白も黄色も世界一幸福な国民になる。弾みがついているオバマが何を言っても聴衆は沸く。ロックスター的、カルトのリーダー的カリスマの勢いに乗った人気は、果もなく上昇するばかりである。この演説上手にヒラリーが敵うはずが無い。彼女の演説は退屈極まりない常套句の羅列で、新鮮味が無く聴いていて気の毒になるほどだ。現大統領ブッシュは演説下手とカリスマ性の無さで大損をしてきた。ブッシュほどコミュニケーションが不成功に終わる政治家も珍しい。優秀なスピーチライターが書いた素晴らしい原稿も、宙に浮いてしまい人の心に通じない。
しかし、冷めて聞いている人間にはオバマがその「チェンジ」をどうしてやり遂げるかを一言も言っていないのに気付く。チェンジ、チェンジと言うマントラを繰り返し、ユートピアを約束するけれども、いったい「HOW DO YOU CHANGE?」 なのだ。天才的に頭の良いことと、賢明さには大きな相違がある。頭脳明晰なロックスターは、アメリカが直面するテロ対策をどう処置するのだろうか。アメリカ大統領は陸海空軍の総司令官である。テロリズムの標的になっているアメリカの Commander in chief になるクオリティーもサブスタンスも無く、そのカリスマ性と人気だけで陸海空軍を統師する総指揮官の大役が務まるのだろうか。ブッシュにもクオリティーは無かった。その結果がイラク戦争である。戦争の批判はどうであろうと、いま現在アメリカは戦時である。
リベラルな民主党上院議員の中で最も「極左リベラル」と言われているオバマは、自分が大統領になったらアメリカ軍を直ちにイラクから撤退させる、と言った。撤退後のカタストロフィーの現実に答えがないと知るや、数か月後には自分が大統領になったら「十六か月後に撤退させる」と変わった。その後「アルカイダが舞い戻ってこない限り」と付け足した。いずこも同じ政治家の口先マントラと変わりは無い。オバマは恐るべき天才である。彼は47歳という若さだ。いつかは素晴らしい政治家になれるかもしれない。しかし私には十歳になる孫がいる。彼らの世代の将来を憂いなくゆだねられる政治家は、今のアメリカには残念ながら一人もいない。
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