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2008-01-12 00:00
日本政府の対北朝鮮「措置」は「制裁」ではない
星野三喜夫
新潟産業大学経済学部教授
懸念されていた様に、2007年10月の6カ国協議「合意」に盛られた北朝鮮の寧辺にある3つの核施設の同年12月末までの「無能力化」と全ての「核計画の申告」は、2007年12月に至り北朝鮮が不完全な対応をするだけでなく、さらに重油やエネルギー関連設備・資材の「見返り」先行要求に出たために、2008年に持ち越しとなった。越年となったこの「第二段階措置」や、その後に想定される核施設の「廃棄・解体」(2007年10月合意では2008年1月までにこれに着手するとなっていた)を含めた「最終段階措置」が、5カ国側の思惑通りに進むのかどうか、黄信号が点っている。
極めて小さく赤貧の北朝鮮は、したたかな外交と核開発、核の脅威(「核カード」)をちらつかせることにより「瀬戸際外交」を続けて来ている。実際、現在の北東アジアの政局、平和と安全保障は、北朝鮮の手に委ねられている、といっても過言ではない。北朝鮮にとって核は、体制維持を図る上での最大の「武器」であり、その武器を完全放棄するとは即座に考え難い。北朝鮮は2006年にテポドン2号等のミサイル7発を発射し、これに対し日本は直ちに経済「制裁」を発動したが、2006年10月に至り地下核実験を敢行するに及び、同国は事実上の「核保有国」となった。国際社会は北朝鮮の核実験を厳しく非難したが(2006年10月に国連安全保障理事会は北朝鮮の地下核実験に対し「制裁」決議を採択)し、米国を中心に金融「制裁」が行なわれたが、「核保有国」となってしまった以上、結果的には、強い姿勢で北朝鮮を追い詰めて、核技術が第3国に流出する危険を冒してまで核の廃棄を迫るのではなく、一定の譲歩を受け入れて、対話を重ねながら、核の拡散を防ぎ、段階的に核の放棄を進めさせるという方法を選ばざるを得なくなった(即ち、「核廃棄」の要求を掲げつつも、当面の措置として「核不拡散」に交渉の軸足を置いて来た)。その意味で、国際社会は核保有国北朝鮮の「瀬戸際政策」に多かれ少なかれ応じざるを得なかった、と言うことも出来よう。
日本が絶対に譲ることの出来ない北朝鮮による拉致の問題は、北朝鮮の核開発が明白になりその廃棄プロセスに焦点が置かれるにようになってから、解決の目処が立たなくなっている。ところで、日本のマスコミ報道等では、「日本による北朝鮮に対する『制裁』」といった表現をしばしば使用する。日本語の「制裁」は「道徳・習慣または法規・申合せなどに背いた者をこらしめのために罰すること。しおき」(広辞苑)を意味する。北朝鮮による日本人拉致は、日本の国家主権に関わる重大事項であると同時に、人間の尊厳、人権および基本的自由の明白な侵害である。日本政府には日本国民を守る責務があり、現に相当数の日本国民を拉致(誘拐)している北朝鮮に対し、船舶の入港禁止や輸出の全面禁止等を行なうのは、日本政府による主権の発動として当然の措置である。そのような日本政府の行為を、「こらしめ」」や「しおき」、「懲罰」(英語でpunishmentに相当する)等を言外に含む「制裁」というターミノロジーで表現するのは、実体と異なるものであり、使用は控えるべきである。
因みに、2006年10月9日の北朝鮮の地下核実験に対する同年10月14日の国連安全保障理事会による全会一致の「制裁」決議1718は、国連憲章第7章(Chapter VII)「平和に対する脅威、平和の破壊及び侵略行為に関する行動(Action with Respect to Threats to the Peace, Breaches of the Peace, and Acts of Aggression)」の中の、第39条から第51条までの13条が根拠条文であるが(特に第41条の「非軍事的措置(measures not involving the use of armed force)」が主たる根拠とされている)、国連決議1718も国連憲章第7章の13の条項のいずれにも、日本語の「制裁」に相当するsanctionやpunishmentといったterminologyは見当たらない。使われているのは、「措置」「決定」「手段」「行動」「活動」を表すmeasures、decisions、means、action、operationsというターミノロジーである。
拉致問題は日本が北朝鮮側に働きかけるだけで解決されないのは明白であり、日本は、国際機関や多国間・地域間の枠組みや関係国からの理解と支持を得ながら、引き続きあらゆる機会を捉えて拉致問題を俎上に載せて糾弾して行かなければならない。北朝鮮による日本人拉致は、日本の国家主権と日本国民の人権の侵害そのものである。日本は「対話と圧力」を基本としつつ、「民主主義」と「人権」の拡大に共通の価値を置く日米同盟を拠りどころに、また国連や国際社会に共有の問題としての人権侵害についての理解と支持を味方につけて、米国と北朝鮮が参加する6カ国協議やその他のフォーラムや枠組み等の場で、今後も粘り強く、かつ不退転の意思で、核の問題と並行して、現に日本の主権を侵害しているこの問題を糾弾し解決を迫って行くべきである。主権の発動として日本政府が採る北朝鮮に対する糾弾の「措置」、「行動」をマスコミ等はミスリーディングな「制裁」という言葉で括るべきではない。
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