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2026-10-15 00:00
アメリカによるイラン制裁が中途半端なのは中国を制裁できないからだ
古村 治彦
愛知大学国際問題研究所客員研究員
トランプ政権が始めたイラン戦争は停戦交渉も停滞し、停戦の兆しも見えていない。アメリカとイスラエルは圧倒的な軍事力で電光石火の攻撃で、イランの現体制を崩壊させることができると楽観視していた。実際はそのようにはうまくいかなかった。アメリカのスコット・ベセント財務長官は2026年8月24日に、「経済的Dデイ」を発動すると発表した。これは、イランを経済面から締め上げるということで、原油取引や金取引、暗号資産取引に対して規制をかけるということだ。これで、イランが核開発や軍事力増強をするための資金源を断つとアメリカ側は意気込んでいる。しかし、対イラン経済制裁は中途半端で終わりそうだ。それは、イランの最大の取引相手である中国への圧力がセットになっていないからだ。下記論考はそのことを詳しく分析している。以下に要約する。
中国は長年、イラン産原油の最大の購入国であり、イラン産の原油の約90%が影の船団を通じて中国へ輸送されている。また、中国はドル決済を回避できるCIPSを提供しており、イランとの紛争開始後、その取引額は1日あたり6800億元から7900億元へ増加した。このため、アメリカがイランに本格的な経済打撃を与えるには、中国への圧力が不可欠である。 しかし、ベセント長官は中国を直接名指しなかった。中国政府もアメリカの発表を深刻には受け止めていない。中国外務省は制裁を違法と非難したものの、強い対抗姿勢は示さなかった。中国の分析者やメディアは、今回の発表をイランへの実効的な圧力というより、アメリカ国内の不満に対応するための無力な措置であり、内容も曖昧で実施も遅いと評価している。
その一方、中国はアメリカが自国企業を標的にすれば報復する意思と能力を明確にしている。中国はすでに報復の法的枠組みを整え、5月にはアメリカの対イラン制裁に対抗して阻止規則を初めて発動した。この規則は、中国国内外の企業がイラン制裁を順守することを事実上禁じるものであり、現時点で全面適用されていないものの、必要なら実行できるという警告になっている。中国が持つ最大の切り札は、レアアースの輸出制限である。中国が前年にアメリカ向け輸出を停止した際には、アメリカの製造業、とりわけ防衛産業の一部が操業停止に追い込まれ、トランプ政権は中国製品への関税政策を急速に修正した。中国はこの手段を再び使えば、アメリカに大きな圧力をかけられると理解している。
アメリカは代替供給網を構築すると表明してきたが、中国への依存を大幅に減らせていない。アメリカはすでに中国の大手独立系精製企業や海運会社約40社を制裁対象にし、今回さらに小規模な仲介業者約60社を加えた。しかし、中国の銀行など制裁網を支える中核機関や、イランへ資金を流す複雑な仕組みには踏み込んでいない。中国から見れば、アメリカの措置は制裁体制を根本的に強化するものではなく、強硬姿勢を装った限定的な対応にすぎない。
中国にとって、この状況は都合がよい。新型コロナウイルスや不動産バブル崩壊で経済が低迷する中、習近平政権は輸出依存から内需主導への転換を進めなければならない。そのためにはアメリカとの関係を安定させる必要があり、9月に予定されるトランプ大統領と習近平国家主席の首脳会談も実現させたいと考えている。
中国は実効性のある対中制裁を、イラン問題への対応ではなく、貿易戦争を再開する口実とみなす可能性が高い。アメリカと中国の双方とも、現時点では貿易戦争の再燃や緊張の急激な激化を望んでいないため、イラン問題は二国間対立の本質から注意をそらす材料にとどまっている。この力学は結果的にイランを利する可能性がある。アメリカが中国を含むイランの経済的生命線に対して、協調的かつ本格的な圧力を加えられないなら、港湾封鎖や軍事的圧力だけでイランを屈服させることは難しい。アメリカは経済面でも、イランを屈服させることはできない。イランを相手に本格的に経済面での圧力をかけることは中国を刺激し、中国との争いに発展することになる。そうなれば、アメリカにとっては大きな痛手を被ることになる。そのため、国内のガス抜きで、イランへの経済制裁を大々的に発表したが、その実質はあまり意味がないということになる。アメリカはイラン戦争で厳しい状況に追い込まれている。最後には、トランプ流の融通無碍と厚顔無恥で「大勝利」を宣言しながら、実質的に敗北を認めるという方向に進むしかないだろう。
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