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2026-10-10 00:00
(連載1)イラン戦争-ホルムズ海峡を巡る戦争
村上 裕康
ITコンサルタント
2026年2月28日、米国・イスラエル軍がイランの核関連施設や軍事拠点を攻撃した。イラン戦争の始まりである。初日の攻撃でイランの最高指導者アヤトラ・ハメネイ師の他、数十人のイラン高官を殺害した。以降、40日間に渡ってイランの核関連施設、レーダー施設、ミサイル・ドローンの貯蔵施設を標的として、爆撃した。
米国・イスラエル軍の攻撃に対して、イランはホルムズ海峡を封鎖した。ホルムズ海峡は、ペルシャ湾岸の出入り口にあって、そこを通って海上輸送される原油の量は、全世界の海上取引で取引される石油の約20%を占める。ホルムズ海峡は、世界経済のチョークポイントである。
イランは、ホルムズ海峡の周辺にドローンの発射装置や弾薬を積んだ小型の高速ボートを多数配備し、「警告を無視して海峡を通過しようとする船があれば爆破する」と脅し、海峡を支配した。2月28日以前にバレルあたり60ドル台であったWTI原油の先物価格は一時110ドルを突破した。イランはホルムズ海峡を封鎖すると脅せば、世界経済が混乱に陥ることを目の当たりにした。イランにとってホルムズ海峡は米国を黙らせる最強のレバレッジである。
イランは海峡を通過しようとするタンカーに対して、IRGC(イラン革命防衛隊)は事前審査を要求し、通過を許可する条件として原油1バレルあたり1ドルの通航料を、人民元もしくは暗号通貨で支払うことを要求した。IRGCの許可を得ないで、海峡を通過しようとする船があれば、これを爆破すると脅した。
国連海洋法条約(UNCLOS)は、ホルムズ海峡を「国際海峡」に指定して、原則として軍艦を含むすべての船舶に「通過通航権」(国際海峡における自由航行の権利)を認めている。イランによる海峡封鎖や通航料の徴収は「通過通航権」の侵害であり、国際法違反である。一方、イランはホルムズ海峡は自国の領海の一部であると主張し、安全を害しない船舶に通航を認める「無害通航権」の適用を主張している。
4月8日、米国とイランは、ホルムズ海峡の安全航行を条件に2週間の停戦に合意するが、イランによってこの合意はすぐに破られた。4月13日、米軍は対抗措置としてホルムズ海峡の海上封鎖を行った。イランの港湾に出入りする船を対象に海上封鎖が行われ、イランからの石油の輸出、あるいは貨物の輸入が遮断された。海上封鎖の狙いはイランに圧力を加え、ホルムズ海峡を開放させること、そしてイランを和平交渉のテーブルに着かせることである。
ホルムズ海峡の開放を求める米国と、経済制裁の解除を求めるイランは、6月17日、和平交渉を進めることで合意し(イスラマバード合意)、トランプ大統領およびペゼシュキアン大統領が暫定覚書(MOU)に署名した。MOUは、60日間という期限を設け、本交渉を始めるための枠組みに関する文書である。14カ条からなるMOU(覚書の暫定期間中)は、戦闘の停止、ホルムズ海峡の開放、イランに課されている制裁の解除、核兵器の開発抑止、凍結資産の開放、イランの3000億ドルの復興基金の創設について記載している。
MOUの合意に応じたイランの狙いは、イランに課された制裁の解除、凍結資産の解除、復興基金の獲得である。MOUに署名したことで、米国によるホルムズ海峡の海上封鎖は解かれ、石油の禁輸措置は解かれた。また、凍結資産の一部は開放された。
一方、米国の狙いは、ホルムズ海峡の開放であり、イランによる核兵器保有の阻止である。MOUに合意したことで、60日間という限定期間中、ホルムズ海峡は開放されることになった。米国とイランはイランの核開発を抑止するための条件を巡って交渉を開始することになった。イランの狙いは、お金である。MOUは、合意の進展に応じて、米国はイランに対する制裁を解除し、凍結資産を解除して、3000億ドル(45兆円)の復興基金を創設することを謳っている。
MOUの合意はすぐに破られることになる。MOU第1条は「レバノンを含むすべての戦線における戦闘の終結を」要求しているが、レバノンにおけるイスラエルとヒズボラの交戦は止んでいない。また、MOU第5条は60日間の暫定期間中にホルムズ海峡を開放することを要求しているが、その解釈を巡って「海峡の管理権」を主張するイランと、「国際法に沿った海峡の自由通行」を主張する米国が対立した。
MOUが署名されると、「海峡の自由通行」を主張するIMO(国際海事機構)とオマーンは、海峡のオマーン側に「自由通行路」を設けた。ペルシャ湾に閉じ込められていた商船は、オマーン航路を通って避難した。多くの商船がイラン航路を使わないでオマーン航路を通航するのを見て、イランは自国の海峡管理権が脅かされたと思い、ドローン攻撃を仕掛けたのである。暫定合意の期間中はホルムズ海峡を開放するというMOUの合意は、イランのドローンによる商船攻撃で破られた。
イランが「ホルムズ海峡の管理」に固執するのは、47年前のイスラム革命まで遡ってイスラム革命体制を理解する必要がある。IRGC(イスラム革命防衛隊)存立の根拠は、米国およびイスラエルの植民地主義からイランの革命体制を守ることにある。彼らは、中東地域から米国を排除し、イスラエルを抹殺することを目指して47年間戦ってきたのである。イラン全土に地下にトンネル網を巡らせ、そこにミサイル・ドローンの製造工場・兵器庫・発射装置を分散配置してきたのである。また、ウランを濃縮して核兵器を開発するための技術を蓄えてきた。IAEA(国際原子力機関)はイランが濃縮度60%の濃縮ウランを440Kg保有していると報告している。
イランにとって、「ホルムズ海峡の支配」および「核兵器開発の能力」は、イランが米国・イスラエルと対峙する時の抑止力である。もし彼らが核兵器とミサイルを所有して「核兵器を使うぞ」と脅せば、米国・イスラエルはイランに手出しができなくなる。彼らがホルムズ海峡を支配して「海峡を通過する船を攻撃するぞ」と脅せば、世界経済の生死与奪の権利をイランが握ることになる。
米国が世界秩序を維持するためには、イランの「ホルムズ海峡支配」あるいは「核兵器開発能力」を阻止しなければならない。米国とイランが「ホルムズ海峡の管理」あるいは「核開発の制限」を巡って争うのは、それぞれにとって生存をかけての戦いだからである。
イランによる商船攻撃を受けて、米国は石油取引を禁止する制裁措置を再発動した。トランプ大統領は「停戦は終わった」と述べ、MOU合意の破綻を示唆した。その後も、オマーン航路を通航する商船に対するイランの攻撃は続いた。イランは海峡の管理権が脅かされることを警戒したのである。
7月12日、イランがホルムズ海峡の再封鎖を宣言すると、7月14日、米軍は「イラン海上封鎖」を再発動し、イランの港に出入りする船を対象に海峡を封鎖した。海上封鎖でイランから輸出される石油は遮断され、イランが輸入する貨物は遮断された。イラン石油の90%を購入しているという中国への輸出も遮断され、イランは最大の収入源である石油収入が絶たれることになった。
トランプ大統領は、イランに「商船攻撃を停止しなければさらなる代償を支払うことになる」と最後通牒を突きつけた。イランからの回答はなく、米軍は13日間の連日連夜にわたってイランの防空レーダー、通信ネットワーク、沿岸の監視拠点、ドローンの保管庫、を標的として攻撃した。
米軍による連日連夜の攻撃に対し、イランはひるむことなく応戦し、米軍基地があるカタールやクウェート、ヨルダン、バーレーンに報復攻撃をした。さらにサウジアラビアやオマーン、UAEなど湾岸諸国にミサイルやドローンで攻撃し、湾岸諸国全域に軍事衝突を広げた。
また、イエメンにおけるイランの代理勢力フーシ派は、イエメン政府軍およびサウジアラビアと軍事衝突した。フーシ派はイランから支援を受けて、サウジアラビアの国際空港や石油関連施設をミサイル攻撃した。また、紅海の入り口にあたるバブ・エル・マンデブ海峡沿岸の要衝を占拠して、サウジアラビアの船舶をターゲットに海上封鎖すると脅した。バブ・エル・マンデブ海峡はアデン湾からスエズ運河に繋がる紅海の入り口にあたり国際海峡に指定されている。
13日連続爆撃でホルムズ海峡の沿岸にあるイランの防空システム、監視システム、ミサイル発射装置を破壊した。イラン側の防空・監視能力を叩いたうえで、米軍はホルムズ海峡のオマーン側に安全な航路(南側航路)を確保した。米軍のネイビーシールズは南側航路から機雷を除去して安全を確保した。そして海峡を通過するタンカーに対して24時間の軍事監視を敷きながら、イランからの攻撃を察知すると迎撃することで、海峡の安全通行を確保した。海峡を通過するタンカーには、チャーターで運行するシャドーフリートを使った。シャドーフリートはAIS(船舶自動識別装置)を切って海峡を通過し、海峡を通過した後で原油を積み替えた。
トランプ大統領は「ホルムズ海峡は米国が支配している」と宣言したが、米軍の護衛のもとで一定量の原油輸送が確保されている実態を反映しての発言である。トランプ大統領は、ホルムズ海峡の名前を「トランプ海峡」にしたらよいと冗談を飛ばしたが、米軍の多大な尽力があってのことである。8月のWTI原油価格を70ドル台~80ドル台に抑えられている。米軍の護衛がなくなれば、ホルムズ海峡はイランに支配され、原油価格は跳ね上がるだろう。(つづく)
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